今月はジャズ喫茶全盛期に日本において絶大な人気を誇ったテナーサックス奏者、ハンク・モブレーを紹介いたします。
ハンク・モブレーの代表作と言えば『ディッピン』『ロールコール』『ソウルステーション』となるのでしょうが、私はあえて通称『1568』を紹介いたします。だって……隠れた名盤コーナーですから。
このアルバムにはタイトルが付いていません。Blue Noteナンバー1568です。だから通称『1568』!
現代ハードバップとは一味違う、1950代の本物のハードバップをお聴き下さい。
ハンク・モブレー
HANK MOBLEY
アルバムタイトルは無し、通称『1568』
1957年6月23日録音
メンバー
ビル・ハードマン(tp)
カーティス・ポーター(as,ts)
ハンク・モブレー(ts)
ソニー・クラーク(p)
ポール・チェンバース(b)
アート・テイラー(ds)
曲目
1.マイティー・モー・アンド・ジョー / Mighty moe and joe
2.恋に恋して / Falling in love with love
3.バグス・グルーヴ / Bag’s groove
4.ダブル・エクスポージャー / Double exposure
5.ニュース / News
それではメンバー紹介から
ビル・ハードマン (tp)
1933年4月6日オハイオ州クーリーブランド出身。
ジャズトランペッター。
50年代の始め頃より活躍を始め、タッド・ダメロン、チャールス・ミンガスといった大物ミュージシャンのグループに参加。
56年9月~58年8月までジャズメッセンジャーズの一員として活躍。
カーティス・ポーター (as,ts)
1929年9月21日ペンシルベニア州フィラデルフィア出身。
56年9月から59年10月までチャールス・ミンガス・グループて活躍。
ミンガスが音楽を担当した映画『アメリカの影』のサウンドトラックをミンガスとともに手がける。ブルーノートにセッション多数。
ハンク・モブレー (ts)
1930年7月7日~1986年5月30日
ジョージア州イーストマン出身。
51年マックス・ローチ、54年ディジー・ガレスピー、55年ジャズメッセンジャーズの初代テナーマンとなる。
60年~61年はマイルス・デイビス・コンボに迎えられ、その後もニューヨークで活躍した。
60年代後半からはヨーロッパに渡り、フィリー・ジョー・ジョーンズとパリを中心に演奏する。
70年に帰米してケニー・ドーハムとコンボを結成。
72年演奏の活動場所をシカゴに移す。
ブルーノートに自己のアルバムが多数ある。
ソニー・クラーク (p)
1931年7月21日~1963年1月13日
ペンシルベニア州ハーミニー出身。
ジャズピアニスト。
51年オスカー・ペティフォードのコンボに参加。
53年にはバディ・デフランコ・カルテットに迎えられる。
56年ハワード・ラムゼイのライトハウス・オールスターズに参加。
57年からはダイナ・ワシントンの伴奏をつとめ、それ以後はブルーノートのセッションを中心にフリーとして活躍する。
代表作『クール・ストラッティン』は日本において爆発的セールスを記録する。
ポール・チェンバース (b)
1935年4月22日~1969年1月4日
ペンシルベニア州ピッツバーグ出身。
ジャズベーシスト。
54年ベニー・グリーン、JJ・ジョンソン、ジョージ・ウォーリントンなどの有名コンボで演奏した後、55年に彼の才能に目をとめたマイルス・デイビスが自分のグループに迎え、以後8年の長きにわたりマイルスと共演する。
63年からはウイントン・ケリー・トリオに参加。
50年~60年代を代表するベース奏者。
アート・テイラー (ds)
1929年4月6日~1995年2月6日
ニューヨーク出身。
ジャズドラマー。
チャック・モリソン師事のもと、50年1月にコールマン・ホーキンス楽団に、52年にはバディ・フランコ、53年にはバド・パウエル、そして54年にはアート・ファーマーと色々なグループを渡り歩いた。
その後はソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ケニー・ドーハム、ベニー・ゴルソンらと共演し、50年代中期から後期にかけてニューヨークで最も多忙なドラマーとして活躍した。
それでは本題に入りましょう。
ハンク・モブレーと言えば『B級テナー』とか『テナーサックスのミドル級チャンピオン』とか、はたまた『イモ臭い』などなど、好き勝手に言われておりますが、果たしてそんなに酷いサックス奏者なのでしょうか?
いえいえそんな事はありません! たしかに音色はモコモコしているし、アドリブにだって決して鋭さがあるとは言えません(笑)。
しかし! とってもファンキーでいい味を出しているのですよ。
50年代と言えば、ジョン・コルトレーンを筆頭にソニー・ロリンズ、ジョニー・グリフィン、スタン・ゲッツなどなど、キラ星のような大スターが目白押しです。
そんな中ではB級と呼ばれてもしかたないですね。
それでは、そんな懐かしの昭和歌謡……いえいえ……懐かしさ抜群のB級ハードバップを堪能して下さい。
まずは一曲目。
マイティー・モー・アンド・ジョー / Mighty moe and joe
カーティス・ポーターのオリジナル曲。
挨拶がわりのラッパ、アルト、テナーの3管アンサンブルから始まります。
もう兎に角ファンキー、50年代ハードバップ炸裂です。
1曲目にしてこのアルバムのベストバウト。
当時のハードバップって強烈にカッコいいですね。
二曲目
恋に恋して / Falling in love with love
ソニー・クラークのピアノイントロで始まります。
なんと! このアルバム、ソニー・クラークのブルーノートデビューアルバムなんです。
日本で絶大な人気を誇るブルーノートの看板ピアニストにもこんな時代があったのですね。
ソニーの妖艶なピアノが心地いいです。
三曲目
バグス・グルーヴ / Bag’s groove
ミルト・ジャクソン作曲のFのブルース。
カーティス・ポーターがアルトからテナーに持ち替え。
ラッパ、テナー2本の3管編成。
ソニーのピアノがブルースフィーリング抜群です。
四曲目
ダブル・エクスポージャー / Double exposure
ハンク・モブレーのオリジナル曲。
カーティスとモブレーのテナーバトルが最高。
なめらかなモブレーに対してブロウするカーティスの音色の違いも聴き比べてみると楽しいです。
五曲目
ニュース / News
テーマのメロディーが美しい、カーティス・ポーターのオリジナル曲。
ここでもカーティスはテナー。
アート・テイラーのドラムアクセントが気持ちいい。
50年代~60年代のビバップ、ハードバップ、クールジャズの混戦時代の中においても、ひと際カッコよかったハードバップ。
ハンク・モブレーを通じて当時のハードバップの熱さを感じて頂けたら嬉しいです。
メロディアス、ファンキー、そしてキャッチーなフレーズ、愛すべきB級テナーマンのハンク・モブレーのご紹介でした。
じっくり聴き入るより、バーボン片手に聴くほうが楽しめるかもしれません。
ぜひ一度聴いてみて下さい。
それでは、また来月お会いしましょう。
株式会社 蝶道社オーナー紺田晴久