こんにちは、西内恵介です。雪だ! スキーだ! と、はしゃいでいたのも遠い昔。冬はすっかり耐えるものになってしまいました。耐える冬には、人生色々耐えてきた男が歌う、こんなロックアルバムは、いかがでしょうか?
『ブリング・ザ・ファミリー』
ジョン・ハイアット
『BRING THE FAMILY』
JOHN HIATT 1987年
メンバー
ジョン・ハイアット JOHN HIATT(Vo.A.G P)
ライ・クーダー RY COODER(E.G)
ニック・ロウ NICK LOWE(B)
ジム・ケルトナー JIM KELTNER(Ds)
収録曲
1)メンフィス・イン・ザ・ミーンタイム(MEMPHIS IN THE MEANTIME)
2)アローン・イン・ザ・ダーク(ALONE IN THE DARK)
3)シング・コールド・ラブ(THING CALLD LOVE)
4)リップスティック・サンセット(LIPSTICK SUNSET)
5)ハブ・ア・リトル・ファイス・イン・ミー(HAVE A LITTLE FAITH IN ME)
6)サンキュー・ガール(THANK YOU GIRL)
7)チップ・オブ・マイ・トング(TIP OF MY TONGUE)
8)ユア・ダッド・ディド(YOUR DAD DID)
9)ストゥード・アップ(STOOD UP)
10)ラーニング・ハウ・トゥ・ラブ・ユー(LEARNING HOW TO LOVE YOU)
妻「これだけ大量のレコード、CD、それに楽器に囲まれて子育てしてたのに、子供達、誰一人、音楽に向かわないのは、なぜだと思う?」
俺「どうしてなんだろ?」
妻「パパの聴いてる音楽が変なの」
俺「.....」
妻「その変な音楽を紹介するコラム、評判どう?」
俺「変なってさぁ.....安心してください! 書いてますよ!(©とにかく明るい安村)」
妻「(完全にスルー)こないだ○○さんに、私との掛け合いを楽しみにしてるって言われてね」
俺「.....あー、本文読まれてるのか、不安になったわ」
妻「でしょ? だからお願いした方がいいよ。読んでくださいって」
俺「読者の皆様、どうか、引き続き読み進めてください!」
妻「筆者が冒頭で読んでくれって、新しいパターンじゃない?」
俺「無いだろ。普通」
妻「ねっ?あー恥ずかしーい!(爆笑)」
俺「.....」
ジョン・ハイアット(JOHN HIATT 1952年生)。最近では、アメリカンロック界の至宝などとも言われる、ベテランシンガーソングライターではありますが、売れたか?と言うと、さほどパッとした時代も無いまま、今に至るという印象が拭えません。
ソングライターとしては、ビルボードトップ10ヒット(ジェフヒーリーバンド『エンジェル・アイズ』他)もありますし、ハイアットの楽曲を、カバーしているアーティストは非常に多く、その中には、B.B.キング、バディ・ガイ、ジョーン・バエズにボブ・ディランなど、真のレジェンド達も居るくらいです。
では、なぜ、本人はセールス的に、今一つだったのか? おそらくですよ、まず、顔が怖い(笑)ジャック・ニコルソン系とでも言いましょうか。たまに居ますよね、笑っても笑顔が怖い人。次に、その顔のイメージまんまのダミ声。ブルース系は良しとして、ポップな曲調にはアクが強すぎ!
『顔』と『声』が要因って、身もフタも無いですけど(笑)
10年に渡る不遇の時代。頻繁にレコード会社を変わりながらも、発表したオリジナルアルバムは7枚目に達していました。しかし、一向にセールスは芳しくありません。当時、妻と生まれたばかりの娘をかかえていたにもかかわらず、経済的にも困窮。ドラッグとアルコールに逃げるようになり、心も身体もズタボロ。そんな彼に愛想を尽かした妻は、娘を残し、何と自殺してしまうのです。
まさに失意のどん底。さすがに目が覚めたのか、ハイアットは、まず、レコード会社との契約を打ち切り、施設に入所。ドラッグとアルコールを断つことに成功します。そして再起をかけ、新しいレコード会社の元で、新譜の制作に取り掛かります。プロデューサーの口利きで、招集されたのは、ハイアットとも旧知の間柄のミュージシャン達。彼らは、ほぼノーギャラに近い条件を快諾し、全面的なバックアップを買って出ました。
そのような経緯で完成されたのが本作、8枚目のオリジナルアルバム『ブリング・ザ・ファミリー』です。バックバンドは、ライ・クーダー(G)、ニック・ロウ(B)、ジム・ケルトナー(Ds)のまさにスーパースター軍団です。
このアルバム、歌も演奏も同時に「せーの!」で録る、いわゆる一発録り。ミュージシャンの息づかいまで感じられる、張り詰めた空気感を、そのままパッケージしたような音は、なかなかそこらのロックアルバムでは聴けません。これをわずか4日間で仕上げたというのですから、恐れ入ります。
まず驚くのがライ・クーダーって、こんなアグレッシブなギタープレイヤーだったっけ? ということでしょう。4)、7)のような『いつもの』カントリーナンバーも、熱量が違う。シングルカットされた6)は、完全ビートロックですが、彼ならではのプレイで、グイグイ(笑)攻めて来ます。
ニック・ロウは、シンガーとして確固たる地位を築いておりますが、本作では、寡黙なベーシストに徹しています。見事なフレージングで、改めてプレイヤーとしての凄さを、再認識させられます。
ドラムは、ジョン・レノンの諸作を始め、世界一の録音曲数を誇る、重鎮ジム・ケルトナーです。本作でも、まさに『これしか無い』という、説得力のあるリズムを聴かせてくれます。2)などは、オーソドックスなブルースロックですが、リズム隊2名の絶妙な『抜き差し』で、曲の表情が、見事に変化して行く様は、ため息が出ます。
そしてハイアットは、これら3名の強者どもに、堂々と渡り合う素晴らしいヴォーカルパフォーマンスを魅せてくれています。
スーパースター軍団参加の話題性もあり、本作はそこそこセールスを上げました。ここで勢いに乗りたいハイアットは、翌年、次作もこのメンバーでやりたいとレコード会社に直訴するのですが、「また安く演ってくれるわけ無いよね? そんな予算無いわ!」と一蹴されます。
しかし、災い転じて福と為すとでも言いましょうか、次作『スロー・ターニング』には、後々エリック・クラプトンに「僕のヒーロー」などと言わしめることになる、まだ無名時代のスライドの名手、サニー・ランドレス、『ホテルカリフォルニア』制作直前のイーグルスから「俺はAORバンドなんかやりたくない」と脱退してしまった、男気溢れるバンジョーの名手バーニー・レドンなどが参加。大物プロデューサー、グリン・ジョーンズ(R.ストーンズ、ザ・フーなど)の起用もハマり、最もチャートを上がる一枚を、世に出すことになるのです。
さて、話を本作に戻します。全10曲、本当に捨て曲無しと断言できますが、LPではA面ラスト、5)『ハブ・ア・リトル・フェイス・イン・ミー(少しは僕を信じて)』という、ピアノバラードが本作のハイライトです。散々バックバンドの凄さを語って、最終的に弾き語り曲を推すのも何ですが、こればかりはしょうがありません。後に彼の代表曲となる一曲です。そして、アルバムタイトルの『ブリング・ザ・ファミリー』つまり、『家族を連れて』ってことですが、この頃、ハイアットは、自分と同じような境遇の、バツイチ子持ちの女性と再婚をしています。この新しい家族と共に、再出発を誓うってことなのでしょう。
本作がリリースされた、1987年のロック界は、U2『ヨシュア・ツリー』が席巻した1年でした。そんなもんより、この一枚! 先日、車でかけていたら、妻が「あっ? 私、これ好き!」って言ったんだから、間違いないです(笑)
ケイズ管理(株)西内恵介