CDレビュー7月号『今月の1枚!』
『Tashinam』タシナム7月号の配信です。 ジャズの紹介が続きましたので、今月はロックのアルバム紹介をしたいと思います。
『Discovery』Mike Oldfield
1984年7月録音
Recorded in the swiss alps
メンバー
マイク・オールドフィールド(vo,ds以外の全て)
マギー・ライリー(vo)
バリー・パーマー(vo)
サイモン・フィリップス(ds)
『Discovery』収録曲
1.トゥ・フランス
2.ポイズン・アローズ
3.クリスタル・ゲイジング
4.トリックス・オブ・ザ・ライト
5.ディスカバリー
6.トーク・アバウト・ユア・ライフ
7.セーブド・バイ・ア・ベル
8.ザ・レイク
マイク・オールドフィールドと言われて、すぐにわかる人は少ないかもしれません。
しかし、映画『エクソシスト』のテーマ曲と言われると、ほとんどの人が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 1973年録音のファーストアルバム『チューブラ・ベルズ』が全英1位、全米3位の驚異的な大ヒット。その中の曲のイントロ部分が映画『エクソシスト』に使われました。
けっして『エクソシスト』のために曲を書き下ろしたのではありません。 しかし、映画『エクソシスト』の世界的な大ヒットの影響で、本来の彼の音楽スタイルとかけ離れたかたちで人気が出てしまい、もともとメンタルに弱さを抱えていたこともあって長期の精神治療を余儀無くされます。幸せと不幸は表裏一体、考えさせられますね。
マイク・オールドフィールドはジャンル的にはプログレッシヴロック、シンフォニックロック、などに分類されると思います。 第1期マイク・オールドフィールドはプログレ色が特に強いですが、第2期になるとケルトやアイリッシュなどが混じりあった、ポップス色の強いボーカルの曲が増えていきます。 しかし、そこはマイク・オールドフィールド、ボーカルの曲でもプログレとケルトやアイリッシュなどの民族音楽との融合はさすがです。一般的なユーロポップとは一線を画しています。
このアルバムは彼の9枚目の作品で、第2期マイク・オールドフィールドの傑作です。
30年以上経った今でも、まったく古さを感じさせません。 それではメンバーの紹介から。
マイク・オールドフィールド
1953年5月15日、イギリス、バークシャーレディング出身。 作詞、作曲、プロデューサー、ミキシング・エンジニア、ギタリスト、ベーシスト、ピアニスト、26種類の楽器を操る天才マルチプレイヤー。 ロックバンド『サリアンジー』『チルドレン・オブ・ザ・サン』『ザ・ホール・ワールド』などで活躍、主にベースを担当。解散後の1972年からソロ活動を開始。 1973年19才でファーストアルバム『チューブラ・ベルズ』でセンセーショナルなデビューを飾り、プログレッシヴロックのスターとしての地位を築く。
マギー・ライリー
1956年9月15日、スコットランド、グラスゴー出身、ヴォーカリスト。14才でプロデビュー、その後、ロックバンド『ジョー・クール』『ケイドー・ベル』などを経て、1980年にマイク・オールドフィールドに出会い、ソロ活動を開始。今までにアルバムを10枚リリース。
バリー・パーマー
1958年、イギリス出身。 プログレバンド『トリアンヴィラート』『ユーライア・ヒープ』のヴォーカリスト。 解散後、ソロ活動。
サイモン・フィリップス
1957年2月6日、イギリス、ロンドン出身。 セッションドラマー、スタジオミュージシャン、ミキシング・エンジニア。 『マイケルシェンカーグループ』『ホワイトスネイク』『ザ・フー』『TOTO』のドラマーとして活躍し、ロック界で不動の地位を築く。
1曲目から5曲目までほとんど切れ目のないメドレーで構成されていて、マギーとバリーが1曲ごと交互に歌っていきます。そして4曲目がデュエットで、ラストが得意のインストで締めくくります。全体的にひとつのストーリーのように聴かせてくれて、幻想的な世界に導いてくれます。私の青春時代に何度も何度も聴いてきた1枚、特に1曲目の『トゥ・フランス』には、ずいぶんと癒されました。 それでは曲の聴きどころを簡単に紹介いたします。
1曲目『トゥ・フランス』 トレモロの効いたマンドリンのイントロで始まります。 歌姫マギー・ライリーの透明感のある、そして伸びやかで哀愁の漂った歌声がとても素敵です。マイク・オールドフィールドの曲にジャストフィットしています。 曲が終わってから、そのまま2曲目に流れていくアレンジが絶妙です。
2曲目『ポイズン・アローズ』 『トゥ・フランス』からのメドレーの流れで始まります。バリー・パーマーの力強くて説得力のある歌声が聴きどころ。イントロと後半部分の狼の遠吠えがプログレしていて嬉しくなります。
3曲目『クリスタル・ゲイジング』 マギーの歌声は曲名どおりクリスタルです。 サイモン・フィリップスの乾いたドラムの音と、マイク・オールドフィールドのオルガンの音の絡みが最高です。
4曲目『トリックス・オブ・ザ・ライト』 マギーとバリーのデュエット曲。 マイク・オールドフィールドのシンプルなギターサウンドが聴きどころです。
5曲目『ディスカバリー』 アルバムのタイトル名にもなっている、バリーのハスキーな声がピッタリなロック調な曲。マイク・オールドフィールドのギターソロも聴きどころです。
6曲目『トーク・アバウト・ユア・ライフ』 マギーのボーカルで、浮遊感漂う一曲。 途中何度も『トゥ・フランス』のメロディーが出てくるアレンジはマイク・オールドフィールドならでは、深いやすらぎを感じます。
7曲目『セーブド・バイ・ア・ベル』 バリーのボーカル曲。 宇宙のことを歌った曲だけに、壮大でシンフォニックな曲調です。
8曲目『ザ・レイク』 このアルバム唯一のインスト曲。 マイク・オールドフィールドのギターの旋律が感動的です。
このアルバムはジュネーブ湖の見えるスイスアルプス2000mのスタジオで録音されました。ジュネーブ湖を見ながら作曲したのでしょうか。情景が浮かびますね。 このアルバムは、ボーカルとドラム以外は全てマイク・オールドフィールドが演奏しています。マルチな才能に驚かされます。そういえば彼、ロンドンオリンピックの閉会式で演奏していましたね。久しぶりに見た姿に懐かしさを感じました。でも彼が誰だかわからなかった視聴者も多かったでしょうね(笑)。プログレッシヴロックが衰退していくなか、彼にはまだまだ頑張って欲しいものです。変化し続けるマイク・オールドフィールドの次なる変化に期待しましょう。
今後ともウェブマガジン『Tashinam』タシナムの応援よろしくお願いします。それではまた来月お会いしましょう。
[2015.7.蝶道社オーナー紺田晴久]