『Tashinam』 タシナム9月号の配信です。
今月は硬派なジャズファンから初心者ジャズファンまで納得させられる、秋の夜長にピッタリなジャズバラードアルバムを紹介したいと思います。
『エターナル』ブランフォード・マルサリス
『Eternal』Branford Marsalis
2003年10月8日~10日録音 NY
メンバー
ブランフォード・マルサリス(ts,ss)
ジョーイ・カルデラッツォ(p)
エリック・レヴィス(b)
ジェフ・テイン・ワッツ(ds)
収録曲
1.ザ・ルビー・アンド・ザ・パール
2.レイカズ・ロス
3.グルーミー・サンデー
4.ザ・ロンリー・スワン
5.ディナー・フォー・ワン・プリーズ、ジェームス
6.マルドゥーン
7.エターナル
8.ボディ・アンド・ソウル (日本盤ボーナストラック)
まずはメンバー紹介から。
ブランフォード・マルサリス
1960,8/26,ルイジアナ州ニューオーリンズ出身。
泣く子も黙る、マルサリス音楽一家の長男でサックス奏者。
父はピアニストのエリス・マルサリス、弟は天才トランペッターのウィントン・マルサリス、トロンボーンのデルフィーヨ・マルサリス、そしてドラムのジェイソン・マルサリス。
4歳からピアノとクラリネット、15歳でサックスを始める。
その後、バークリー音楽大学で学び、1980年『アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズ』に加入、1982年~1985年『ウィントン・マルサリス・クインテット』、1985年にはスティングのバックバンド、1986年自身のバンド『ブランフォード・マルサリス・カルテット』、1994年R&B,ヒップホップ,ロックの融合を目的としたユニット『バックショット・ルフォンク』結成という、華々しい経歴の持ち主。コンテンポラリージャズのサックス奏者として、現在最も重要な一人。
ジョーイ・カルデラッツォ
1965,2/27,ニューヨーク州ニューローシェル出身。ジャズピアニスト。
1987年『マイケル・ブレッカー・バンド』に加入し10年間活動、その後『ブランフォード・マルサリス・カルテット』に加入。
エリック・レヴィス
1967,5/31,ジャズベーシスト。
クレイグ・ベイリー(as,fl)らと活動した後、1998年ブランフォード・マルサリス・カルテットに加入。
ジェフ・テイン・ワッツ
1960,1/20,ペンシルベニア州出身。ジャズドラマー。
『ウィントン・マルサリス・クインテット』『ブランフォード・マルサリス・カルテット』マルサリス一家のバンドに数多く参加。
クリスチャン・マクブライドのNYセッションには欠かせない一人。
現代ジャズ界最強ドラマー。
現代コルトレーン派最強の一人、ブランフォード・マルサリスが練りに練って作品にした全編バラード集。
ジャズテナーでバラード集と言うと、まず真っ先に思い浮かぶのがコルトレーンの『バラード』。時代背景の違いや作品コンセプトの違いもあるので、比較することに意味があるとは思いませんが、今回ご紹介する『エターナル』は、この『バラード』に匹敵する作品だと思います。
全体的に現代バラードは泥臭くないし、お洒落な作品に仕上がっているものが多いので、イージーリスニングとか、BGMっぽいとか、薄っぺらいとか、これはジャズじゃないとか、とかく言われがちですがブランフォードのクラッシック奏者のようなテクニックの深遠な世界を堪能して頂きたいです。
では簡単に曲の紹介をいたします。
1.3.5.8.がスタンダード曲。
2.4.6.7がメンバーそれぞれ一曲持ち寄ったオリジナル曲。
1.ザ・ルビー・アンド・ザ・パール
ウェイン・ショーターの演奏やナット・キング・コールの歌で有名。
人間の哀しみを深く静かにボレロで演奏しています。
オープニング曲だけあって、このアルバムの中のベストな一曲。
マルサリスはソプラノサックス。
2.レイカズ・ロス
ドラムのジェフ・テイン・ワッツのオリジナル。
浮遊感漂う一曲。
3.グルーミー・サンデー
ビリー・ホリデーの歌で有名な曲。
マルサリスのテナーのテクニックがとにかく凄い。
全ての音の粒が見事に揃ってます。
レヴィスのウォーキングベースも聴きどころ。
4.ザ・ロンリー・スワン
ピアノのジョーイ・カルデラッツォのオリジナル。
ニューヨークに飛来する白鳥がテーマの曲だけあって、都会的な匂いのする現代バラード。都会的なサウンドにマルサリスのソプラノサックスが絶妙にマッチしてます。
5.ディナー・フォー・ワン・プリーズ、ジェームス
ベン・ウェブスターの演奏やナタリー・コールの歌で有名な曲。
マルサリスはテナーサックス。
6.マルドゥーン
ベースのエリック・レヴィスのオリジナル。
現代バラード。心に浸みる一曲です。
マルサリスはソプラノサックス。
7.エターナル
ブランフォード・マルサリスのオリジナル。
17分を超える長編バラード。
このアルバム唯一盛り上がりのある曲です。
8.ボディ・アンド・ソウル
日本盤限定のボーナス曲です。7曲目で思いっきり盛り上がって終わっているので、個人的にはこのボーナス曲はいらなかったなぁ…と思いますが(笑)有名なスタンダード曲のバラードアレンジです。

画 像元:all.about.jazz URL:http://www.allaboutjazz.com/branford-marsalis-and- chamber-orchestra-of-philadelphia-at-scottsdale-center-for-performing-arts-branford-marsalis-by-patricia-myers.php
ブランフォード・マルサリスといえば、コルトレーンの難解な曲をバリバリ吹きまくったり、ゴジラのテーマ曲をジャズアレンジで吹きまくったり、そんなイ メージだったのですが、バラードやらせても上手いですね。考えてみれば、もともとクラッシックもやるからバラードが上手いのは当然ですね。
このアルバムのテーマは『メランコリィ(悲哀)』だそうです。最後に、ブランフォード・マルサリス本人の談話を書き留めておきます。
『真 に男らしくあるためには泣くときだってある。涙を見せない男は、タフであることを装っているに過ぎない。ぼくは、今ハッピーな気分よりメランコリィが好き なくらいだ。昔は何があってもスマイルを絶やさなかったけど、それはハッピーである振りをしていただけだった。でも人生は、そんなもんじゃない。ジェット コースターのように、アップもあればダウンもある。メランコリィが精神のバランスをとってくれるんじゃないだろうか』
哀しい時に聴いて下さい。心の琴線に触れてくる一枚です。
それではまた来月お会いしましょう。
蝶道社オーナー
紺田晴久