はじめまして。この度、タシナムの音楽紹介コラムを書かせていただくことになりました藤野です!いつもはウェブマガジン「タシナム」の運営をしていますが、2020年はコラム執筆にチャレンジ。どうかあたたかくお付き合いください。
新型コロナウイルスの感染拡大により、「Stay Home」を心がける毎日。家にいる時間が増えたときこそ、気持ちを前向きにして音を楽しみたいところです。
さて、毎月音楽に精通したコラムニストが、とっておきのアルバムを紹介するこのコーナー。私は、どんな音楽を紹介しようかと、CD棚とにらめっこ。そんな中、ふと頭に流れたメロディーが、名曲『Just The Two Of Us』でした。とても有名な曲なので、タイトルを知らなくても、聴いたことがあるという人は多いでしょう。
この曲には『クリスタルの恋人たち』という邦題がついていて、サックスプレイヤーのグローヴァー・ワシントン・ジュニアの『Winelight』というアルバムに入っています。1980年発表なので、もう40年も前ですね…。
こんな流れなので、『Winelight』が今月の音楽紹介?と思わせぶりをしておいて、今回は『Just The Two Of Us』の作曲者に注目してみたいと思います。とってもメロディアスなこの曲、なんと作曲者はパーカッション奏者なのです。
今回は大ヒットメロディメーカーであり、第一線で活躍したパーカッションプレイヤー、ラルフ・マクドナルドの『Just The Two Of Us』というアルバムをご紹介します。彼の大ヒット曲をタイトルにした一枚。タイトルチューン以外にもラルフの世界観を存分に堪能できる名盤です。
今月のオススメCD
『Just The Two Of Us 』
Ralph MacDonald(1996年)
ラルフ・マクドナルドとは
米国のパーカッション奏者であるラルフ・マクドナルドは、67歳に生涯の幕を閉じるまで、音楽界に偉大な資産を残した人物です。ラルフは、1944年にニューヨークで生まれました。トリニダード・トバゴ出身のラルフの両親の影響なのか、ラルフといえば、トリニダードの音楽「カリプソ」を感じるもの。スティールドラムの陽気な音楽は、カリプソという名前を知らなくても、耳にしたことがある人は多いでしょう。
父親がドラマーだったラルフは、小さな頃からパーカッションに触れ、父親のバンドでも演奏していました。17歳のときには歌手のハリー・ベラフォンテのバンドに参加しアルバム『カリプソ・カーニヴァル』の制作にも携わるといった実力の持ち主です。その後も彼の才能は活躍の場を増やし、作曲家としても力を発揮しました。
1972年に発表した『Where Is the Love』は、あのロバータ・フラックとダニー・ハサウェイに提供した楽曲。二人から曲の提供を求められたという背景から、ラルフのメロディメーカーとしての能力が高く評価されていたことが伺えます。この曲は、ビルボードHot 100で5位、R&Bチャートで1位、イージーリスニングチャートで1位という快挙となり、1973年の第15回グラミー賞の最優秀ポップ・ボーカル・パフォーマンス・デュオ・グループ賞を受賞しました。
1980年には、グローヴァー・ワシントン・ジュニアのアルバム『Winelight』で、あの『Just The Two Of Us』を発表。ビルボードHot 100で2位、ARC Weekly Top 40で1位。グラミー賞のR&B部門を受賞しました。ビル・ウィザースの歌が印象的ですが、レコーディングをしたミュージシャン達がとびきりスゴイ。ベースはマーカス・ミラー、ドラムはスティーブ・ガッド、パーカッションはラルフ・マクドナルドという至高のリズム隊。グローバー・ワシントン・ジュニアのサックスとロバート・グリニッジのスティール・ドラムが創り上げる世界観が見事で、世界の宝と呼びたくなります。
このように作曲家としての才能が華々しいのですが、プレイヤーとしてのレコーディング参加数は相当なものであり、数百枚のアルバムに参加していると言われています。その活躍は米国には止まらず、日本でも。ドリカムの吉田美和の『beauty and harmony』でも演奏しています。サックス奏者の渡辺貞夫さんが1983年にリリースした『Fill Up The Night』は、ラルフのプロデュース作品。このアルバムには、スティーブガッドやマーカス・ミラーも参加していますね。
収録曲
1. Angel
2. Just The Two Of Us
3. Charade
4. You Do Me So
5. Where Is the Love
6. Atiba
7. With You In My Life
8. J’ouvert Jam
9. Fill Up The Night(With Music)
10. Take A Holiday
11. Mr.Magic
ピックアップレビュー
アルバムの曲、素晴らしい曲ばかりですが、中でもぜひ聴いていただきたい曲をピックアップしてご紹介します。
(1)Angel
カリプソという音楽の心地よさを存分に味わえるとっておきの曲です。「明るい」「楽しそう」といったカリプソならではの雰囲気をのんびり感じながら、それを支える巧みなリズムがたまりません。カリプソのリズムの中に、エレキギターの単音バッキングが絡み、全体のノリがのっぺりしないように見事な演出をしています。このリズムパターンだけループしていても幸せなくらいです。
(2)Just The Two Of Us
ここまで散々語ってきたので、もう説明不要ですね(笑)。ここでは歌詞に注目してみてください。「Just The Two Of Us」とは「二人っきり」。とっておきのラブソングですが、カリブ海の二つの島の宣伝ポスターのキャッチコピーが「Just The Two Of Us」だったとか。二つの島で協力して観光宣伝をしていたのです。このキャッチコピーを見たラルフが、恋愛に見立てて一曲作ったという経緯。それが世界的大ヒットのナンバーに。この曲は色々な人のカバーを聴いてみると、味わいが違ってとても楽しいですよ。
(5)Where Is the Love
こちらも超名曲。ラルフとウイリアム・ソルターの共同作です。伸びやかなボーカルに注目しつつ、リズムに意識を傾けるのが中毒的に楽しめるコツです(笑)。ラルフの作る曲は歌の力をさらに強くしてくれる、そんな気がします。
(11)Mr.Magic
カリプソのノリを感じながら、シンプルに奏でられるスティールドラムの音色がたまりません。アルバムの最後の曲と考えるとラルフは何を伝えたかったのだろう。きっとラルフ・マクドナルドが偉大なメロディメーカーでありながらも、やはりパーカッション奏者であるということなのかもしれません。
ミュージシャンからのリスペクト
ラルフの曲をカバーするミュージシャンはプロ・アマ問わず大勢います。年月が経っても、まるで昨日リリースされた曲のように現代の音で、様々なスタイルのミュージシャン達が奏でる。『Just The Two Of Us』はウィルスミスのカバーが有名ですし、日本では、久保田利伸の『SUNSHINE, MOONLIGHT』や、山崎まさよしの『COVER ALL YO!』といったアルバムにも収録されています。そして、セッションでも誰かがコードを弾くだけで、みんなが知っている名曲として合わせられる。
『Just The Two Of Us』のコード進行は、オシャレな曲の代表的な存在として、音楽を演奏する多くの人に愛されているのです。日本のポップスでも『Just The Two Of Us』の雰囲気を感じるときがありますよね。
素敵な音楽をたくさん残してくれたラルフ
ラルフは、グローヴァー・ワシントン・ジュニアのサポートなどで、何度も来日していました。来日の感想記事などは見たことがありませんでしたが、きっと気に入ってくれていたのではないでしょうか。2011年12月の訃報はまさに不意打ちでした。
ジョージ・ベンソンやデイヴィッド・サンボーン、ビリー・ジョエル、キャロル・キングなど、様々なアーティストとグルーヴをつくり、たくさんの名曲を残し、グラミー賞も3回も受賞したラルフ・マクドナルド。これからも彼の残した音の世界は、色褪せることなく、多くの人に愛されるでしょう。今回ご紹介したアルバム『Just The Two Of Us』は、ラルフ・マクドナルド入門編としても最適です。
今こそ、ラルフの音楽を楽しんでみませんか。
2020年4月
M.FUJINO