音楽紹介 [11] 『The Dancer』 2016年3月号

  
  ウェブマガジン『タシナム』3月号の配信です。
今月は1970年代に起きたジャズロックムーヴメントの中から1枚ご紹介したいと思います。
 
 さて、CDのご紹介に入る前に、まず『ジャズロックムーブメント』とは何ぞや? ということを簡単にご説明いたします。

 1970年代に起きた、ジャンルを超えた音楽の融合、つまりクロスオーバームーヴメントが言葉を変えてフュージョンブームに繋がっていくのですが、そもそもの発祥は1969年のマイルス・デイビスの『ビッチェズ・ブリュー』あたりかと思われます。
 そのサイケだったりファンキーだったりのエレクトリックブームがもともとイギリスにあったジャズロックのミュージシャンに飛び火して、この『ジャズロックムーヴメント』になっていったのです。

 今回ご紹介するのは、その中でも70年代音楽シーンを愛する超絶ギターマニア必聴!
の一枚です。

 


ザ・ダンサー』ゲイリー・ボイル

The Dancer』Gary Boyle

1977年録音UK Produced by Robin Lumley

 

 

 

 メンバー
ゲイリー・ボイル(g)
ロビン・ラムリー(key)
ゾー・クロンバーガー(key)
ロッド・アージェント(key)
デイヴ・マックレエ(key)
ドニ・ハーヴェイ(b)
スティーヴ・ショーン(b)
サイモン・フィリップス(ds)
ジェフ・セオパルディ(ds)
モーリス・パート(per)

 
 収録曲
1.カウシェド・シャッフル
2.ザ・ダンサー
3.ナウ・ザット・ウィ・アー・アローン
4.ララバイ・フォー・ア・スリーピー・ドールマウス
5.アーモンド・バーフィ
6.ペンドル・ミスト
7.アップル・クランブル
8.処女航海

 ゲイリー・ボイルと聞いてすぐに分かる人は相当な音楽通か、ギタリストが大好きなマニアックなリスナーでしょう。
実力の割にあまり陽の目を見なかったギタリストでしたが、今聴いてみても古さを感じないし、何と言ってもその超絶テクニックには驚かされます。
 
 それではまずはメンバー紹介から。

 

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Gary Boyle 画像元:https://goo.gl/usgrCH

  ゲイリー・ボイル
1941年 11月24日インド出身
インド系イギリス人、ギタリスト

インドに生まれたが、8歳の時に家族とイギリスに移り住んだため、音楽はイギリス流。
リーズ音楽大学卒業。

 

 

1966年 ブライアン・オーガ・バンドに参加。
1970年 マイク・ウエストブルック・バンドに参加。
1971年 マイケル・ギブス・バンドに参加。
1972年 ツトム・ヤマシタ・イースト・ウインドに参加。
1973年 リーダーバンド『アイソトープ』結成。
1976年 『アイソトープ』解散
1977年 ファーストソロアルバム『ザ・ダンサー』発表。
現在までにサポートアルバムは多数、ソロアルバムは5枚を発表している。

 

percy_20140903 ロビン・ラムリー
1948年 1月17日 イギリス出身。

音楽プロデューサー兼キーボーディスト。
イギリスのスーパージャズロックバンド『ブランドX』のメンバー。
 

 

 

 

 ゾー・クロンバーガー
ゲイリー・ボイルがリーダーを務めたジャズロックバンド『アイソトープ』のキーボーディスト。
 

 ロッド・アージェント
1946年 6月14日生まれ。
1962年結成のロック&ポップスバンド『ゾンビーズ』のキーボーディスト。
『ふたりのシーズン』が大ヒットし、1982年には日本のロックバンド『一風堂』がカバーしている。

 

 デイヴ・マックレエ
ニュージーランド出身のキーボーディスト。
バンド『パシフィック・イアドラム』のリーダー。

 

 ドニ・ハーヴェイ
アメリカ出身のベーシスト、ギタリスト、ヴォーカリスト。
サンタナのドラマー、マイケル・シュリーヴのバンドではベース、ツトム・ヤマシタのバンドではギターを担当した。

 

 スティーヴ・ショーン
『アイソトープ』のベース。

 

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Simon Phillips 画像元:http://goo.gl/OJF63T

  サイモン・フィリップス
1957年 2月6日 イギリス、ロンドン出身。

ロック、ポップス、ジャズ、何でもこなすスーパードラマー。
ジェフ・ベック、ジューダスプリースト、マイケル・シェンカー・グループ、ホワイトスネイク、ザ・フー、TOTO、サポートドラマー。
有名すぎるのでこれ以上の説明は不要。

 

 ジェフ・セオパルディ
デイヴ・マックレエのリーダーバンド『パシフィック・イアドラム』のドラマー。
ポール・ヤングのバックバンドドラマー。
 

 モーリス・パート

1947年生まれ。
『ブランドX』のパーカッショニスト。
世界を代表するサポートパーカッショニスト。

 

このアルバムのメンバーは基本的にイギリスのスーパージャズロックバンド『ブランドX』のメンバーとゲイリー・ボイルがリーダーを務める『アイソトープ』のメンバーで構成されています。
リラックスした伸びやかな演奏を聴くことができるのは、普段から気心が知れているメンバーで録音されたからに違いありません。

 

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ISOTOPE 画像元:http://goo.gl/BWNI8M

 

 それでは収録曲の紹介です。
 
 1.カウシェド・シャッフル
 ゲイリー・ボイルのオリジナルナンバー。
シンセサイザーと早弾きギターの絡みは圧巻。
70年代の正統派ブリティッシュジャズロックの模範のような曲。
 

 2.ザ・ダンサー
 ゾー・クロンバーガーの作曲でアルバムタイトル曲
ラテン系のリズムに超絶ギターが縦横無尽に絡んでくる。
多重録音のカッティングギターとゲイリーのアドリブがキマりすぎ。
後々のフュージョンの代表曲と遜色ない出来栄え。

 

 3.ナウ・ザット・ウィ・アー・アローン
 スティーヴ・ショーン作曲。
ベースをフューチャーした小曲。

 

 4.ララバイ・フォー・ア・スリーピー・ドールマウス
 ゲイリー・ボイル作曲。
キャッチーで美しいテーマ。
ゲイリーはアコースティックギターを披露。

 

 5.アーモンド・バーフィ
 ゲイリー・ボイル作曲。
泥臭いジャズロックの編曲にゲイリーが超絶技巧でギターを攻め立てる流れ。
終盤に転調してシンセサイザーが壮大なる演奏を聴かせるのはプログレの影響を受けたアイソトープ流。

 

 6.ペンドル・ミスト
 ゲイリー・ボイル作曲。
ゆったりしたテーマから一度も盛り上がらずに終わってしまう迷曲??
ブルースコード中心の曲作りはブルースジャズロックと命名しましょう。

 

 7.アップル・クランブル
 ゲイリー・ボイル作曲。
前曲と打って変わってテンポの良い、典型的ジャズロック。
ドニ・ハーヴェイのフレットレスベースがテクニカルな演奏を披露。
まさに『ブランドX』のスーパーベーシストのパーシー・ジョーンズを彷彿とさせます。
サイモン・フィリップスのドラムも安定感バツグン。
このアルバムのベストな一曲です。それにしてもゲイリーの速弾き強烈です。

 

 8.処女航海
 今やすっかりスタンダードになった、ハービー・ハンコックの名曲。
ゲイリー流の解釈でジャズロックにアレンジして素敵に仕上がっています。
ラストの曲がスタンダードって妙に安心感があるのは私だけでしょうか?

 

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 『クロスオーバー』というのは、もともとはジャンルを超えた音楽の要素を融合させるムーヴメント全体を指す言葉です。
ですから、『フュージョン』と『ジャズロック』は似通ってはいても、もともとは違うジャンルの音楽といえます。
ロックのジャンルにジャズを持ち込んだ『ジャズロック』にはロック畑のミュージシャンが多くて、その逆の『フュージョン』にジャズ畑のミュージシャンが多いのもこういった流れからです。

 しかしミュージシャン同士の交流があるので、当然ながらその後には真の意味でフュージョンしていくことになって今やジャンルなんて意味のないものになってしまっています。

 私は1970年代の泥臭いジャズロックが大好きです。
今回紹介のアルバムも70年代ジャズロックの名盤の1枚です。
機会があれば是非お聴き下さい。
 
 それではまた次回お会いしましょう。
 

蝶道社オーナー
紺田 晴久