こんにちは、西内恵介です。ちょうど一年前にザ・ビートルズ現役時代のラストアルバム『レット・イット・ビー』について書きました(音楽紹介68)そこで触れていましたドキュメンタリー『GET・BACK』は、結局映画としては公開されず、3部作計8時間弱のコンテンツとして、2021年11月からネット配信が開始されました。今回はこの『映像作品』を紹介させていただきます。
『ザ・ビートルズ・ゲット・バック』 監督 ピーター・ジャクソン 2021年
『THE・BEATLES・GET・BACK』 DIRECTOR PETER・JACKSON
出演 ザ・ビートルズ
メンバー
ジョン・レノン(Vo Guitar)
ポール・マッカートニー(Vo Bass Guitar Piano)
ジョージ・ハリスン(Vo Guitar)
リンゴ・スター(Drums)
ゲスト・ミュージシャン
ビリー・ブレストン(Hammond Rhodes)
妻「ひさしぶりだねタシナムに原稿書くの」
俺「前回が東京オリンピック直前、今回は北京直後!」
妻「おー、オリンピック2回やってるんだ」
俺「その言い方だと4年以上ぶりに聞こえる」
妻「事実だもんね」
俺「そだけど」
妻「その久々回に音源の紹介じゃないんだね?」
俺「そう。やっぱりこの映像コンテンツは大げさじゃなくロック史に残るから外せない」
妻「ずいぶん大きく出たね」
俺「今、言って照れたわ」
妻「照れてもかわいくないよ」
俺「ビートルズなんてオッさん達のものと思っている世代にも見て欲しいなー」
妻「ジイさん達のものでしょ」
俺「.....そだねー」
妻「かわいくないって!」
1969年1月、「スタジオでの実験アルバム」の制作に、うんざりし煮詰まっていたビートルズの面々は、「原点に戻って(ゲット・バック)顔合わせてセッションしながら新曲を作ろう」というポールの提案で集結しました。これを「ゲット・バック・セッション」と呼びます。
そうしてできたのが、1970年に発売されたラストアルバム『レット・イット・ビー』であり、そのセッションによる制作過程を撮影し同年公開されたのが『映画版レット・イット・ビー』です。
この『映画版レット・イット・ビー』は、当時アカデミー歌曲賞やグラミーを受賞するなど話題になったのですが、ビートルファンの間では物議を醸した映画でした。
何しろ暗い!言い争うポールとジョージ、ポールの言い分を取り合わないジョン、全然身が入ってない演奏に歌、ジョンはヨーコにべったり、孤軍奮闘するポール、傍観者のリンゴ。
この映画をみたファンの総意は「こりゃ解散してあたりまえだ」です。
そんな映画は正式にはソフト化もされず、あのセッションが解散の発端になったというのは、すで
に定説となっていました。
公開から40年が経過し、2010年代に入ったころ、関係者から「当時の映像の修復作業」を現在だからできる技術で行っているという噂がポツポツ出始めました。
まだ、そのころは「昔の映画を4Kレストア」というイメージでしたが、公開から49年目にあたる2019年にこんな発表がされます。
① ゲット・バック・セッションの映像を収めたフィルムは未公開のものが約60時間ある
② セッションを録音した音源は未公開のものが約140時間ある
③ これらを今、レストア、リマスターの作業をしている
④ レット・イット・ビー発売(公開)から50年を迎える2020年に「新作映画」として公開する
⑤ 監督は(ロード・オブ・ザ・リングシリーズの)ピーター・ジャクソン(ビートルおたく)
なんと「新作の映画」です!解散から半世紀経つロックバンドの新作映画ってありえます?(笑)
そして期待の2020年、全世界はコロナ禍に覆われ、この映画制作も大幅に遅れていることがアナウンスされます。監督のピーター・ジャクソンは「コロナの中、映画を待ってくれているみんなに少しでも笑顔になってもらいたい」と、5分程度の未公開映像の一部をYoutubeで公開します。
そう、たった5分。けど、その5分には、冗談を言い合って笑い合うメンバー、ふざけながら歌うジョンとポール、めちゃカッコいい演奏とノリノリで歌うポール、踊るジョン.....。
あれ?思ってたのと違うぞ?なに?このいい雰囲気。これ見ただけで涙ぐんだビートルファンが世界にどれだけいたか!とにかく映像がきれい!音も迫力満点!俄然期待が高まります。
そして2021年6月には、劇場公開せず3部作として、1編2時間半前後、合計8時間弱の有料ネット配信となることが発表されました。
この段階で「え?有料ネット配信?」と、世の多くのビートルジイさんが動揺(笑)
『ザ・ビートルズ GET・BACK』は、2021年11月に、ディズニー+で配信されたのです。
※ここから先は、ネタバレして行きますので未視聴の方はご注意ください!
※配信1日目
最初の約15分でバンド誕生からこれまでの歴史をダイジェストで見せ、広い撮影スタジオに機材を持ち込んでのセッション開始の様子が映し出される。しかし、昔の『映画版レット・イット・ビー』のように、ポールのやる気と他3人のテンションの差は明らか。
それでもポール主導で曲は生まれて行き、セッションも軌道に乗って行く。この段階では「TV特番」の予定だったために、番組の最後は「ライブ」で終わりたいがどこでやる?のような話題も出る。 セッションが進む中で、ポールにもジョンにも、自分の思うように弾かせてもらえないジョージはイライラがMAXに達し、ポールと口論がヒートアップ。もうやめると言い放ちスタジオから去って行く。
まさかの1日目は超不穏な空気のまま終わり!
※配信2日目
ジョージを戻す説得が不調に終わったことが冒頭でアナウンス。スタジオにポールとリンゴが現れ、スタッフとの打ち合わせが始まる。ジョージのことかと思えば、ヨーコを連れてくるなとジョンに言えないのか?という話題。やはりジョンべったりのヨーコにスタッフもイライラしていた。しかしポールが「今のジョンにヨーコかバンドを選べと言ったら彼は迷わずヨーコを取る」と発言。スタッフも黙ってしまう。
そしてポールは「こんなのはどう?真面目なニュース番組と、僕らの演奏を交互に放送するんだ、そして最後に臨時ニュースです!ビートルズが解散を発表しました!って終わる」そう言ってポール涙ぐむ。リンゴも目に涙ためてる。スタッフ無言。
ジョンが来てポールと2人で話そうと別の部屋へ。そこでの会話も録音されている(完全に盗聴!)2人はジョージのことについて話し始めるが、次第にジョンはポールへの不満、ポールはジョンへの不満をぶつけ始める。最終的にジョージのことも、「戻るよう説得しよう」じゃなく「戻ってきたらまた一緒にやればいい」くらいなのがすごい。
ジョージは、今の広く暗い撮影スタジオじゃなく、アップルスタジオへの引っ越しを条件にバンドに戻ってくる。そしてセッションは再開される。
※配信3日目
たまたまロンドンに来てあいさつに寄ったという旧知のキーボード奏者ビリー・ブレストンがセッションに参加。結局、彼は最後のライブまで巻き添えを食って参加するはめになる(笑)停滞していた曲の仕上げが、ビリーの参加で加速度的に進んで行く。
番組の最後を飾るライブの開催場所については、船上だの遺跡だの散々むちゃなアイデアも出た上で「このビルの屋上」に決定する。
ところが前日になってポールが屋上ライブなんかやりたくないと言い出す。せいぜい6曲をやって何の意味がある?とゴネる。ジョンは新曲のプロモーションなんだし5曲もやりゃ充分じゃん。というスタンス。ポールはそんなお遊びはやめて全曲仕上げようと。こりゃいつまで経っても平行線だと言う時にリンゴが「僕はやりたいな」とボソっと(笑)ポールもならやるかという感じになる。
「ルーフ・トップ・コンサート」当日もまだもめているが、結局屋上へ全員が向かう。そして直前までもめてたとは思えない素晴らしいパフォーマンスを発揮する。映像は4人の演奏はノーカットで、その場に居合わせた路上の人々へのインタビュー、かけつけた警官とのやりとりをマルチ画面で巧に見せて行く。
以上が非常に大まかな(だって8時間だも)あらすじです。
肝心のセッションについての描写がゼロですが、こればっかりは実際に見てほしい!特にタイトルナンバーでもある『ゲット・バック』が完成していく過程なんて本当にマジックです。それとやはり臨場感あふれる映像に生まれ変わった「ルーフ・トップ・コンサート」はトリハダもの!(限定のIMAX上映行かれた方ラッキーでしたよ!)
新曲を形作る合間に、ちらっと昔の持ち曲を演ったり、ブルースをセッションしたり、替え歌を歌ったり、バンドやったことある人が見たら、「あー!あるある!」とニヤっとしてしまうところもいっぱい!
そもそも1日目から1ヶ月間を、日を追って見せて行くシンプルな構成が大成功です。監督のピーター・ジャクソンが、自分だったらこういうものが見たいと、小細工無しに編集していった結果なのでしょう。
内容については、観る方のビートルズとの関わり程度によって、かなり印象変わるかなーと思っていたのですが、ネット上のレビューなど読むと、「レット・イット・ビーは知ってるけど大昔のバンドのイメージ」くらいの方も、結局8時間飽きずに全部観たなど好感触で、全体を通してストーリー性も上手く保たせている演出の勝利です。
そして多分ビートルファン達はヨーコの印象が変わります(笑)いい方にね。あと、ジョン。あ、今日はドラッグキメて来てるなとか(!)もうありありとわかっちまう。ほんとポールおつかれさま!
このバンドの力量と創作欲のすさまじさ、改めて思い知らされる作品でした。濃いぞ。
※ Blu-rayとDVDの日本版発売が4月20日に決定です。一家に1ボックスぜひ(笑)!
ケイズ管理株式会社 西内恵介