こんにちは、西内恵介です。今回の原稿は「決して一人では見ないでください」。そう、賛否両論真っ二つのリメイク版『サスペリア』のサウンドトラックです。レディオヘッドのトム・ヨークが初めて(意外!)手がけた映画音楽としても話題になりました。なお、本文中、映画の内容に触れている箇所はございますが、いわゆるネタバレはしていませんので、未見の方もご安心を。
『サスペリア』
トム・ヨーク
『SUSPIRIA 』
THOM YORKE 2018年
映画『サスペリア』サウンドトラック
ルカ・グァダニーノ監督作品
妻「決して一人では見ないでください!!」
俺「何を?」
妻「今月のクレジットカード請求明細」
俺「!!!!!」
妻「さっ、一緒に見よう!」
俺「!!!!!」
妻「ほら、ランドセルとか学習机とか文房具に靴!孫が入学だと大変なの!」
俺「ふ、普通、親じゃないんですか?大変なのは?」
妻「何で敬語になってんの!」
俺「いや、激しく動揺したんだわ」
妻「若夫婦は大変なの!ジジババが、がんばらないとね」
俺「ちなみに親は何出費したの?」
妻「入学式の自分の服は買うって言ってた」
俺「.....」
77年大ヒットした、イタリアンホラー映画『サスペリア』。「決して一人では見ないでください」という秀逸なキャッチコピーは流行語になり、志村けんが、いかりや長介の顔面を「決して一人では見ないでください」ってやるギャグにも子供達は大爆笑。
映画館に足を運んでなくとも、この映画のことはみんな知っているという、ホラー映画というジャンルとしては、普通ありえないくらい「名前だけでも」お茶の間(死語か?)に浸透した一本です。
監督はダリオ・アルジェント。今やイタリアンホラー映画界のレジェンドですが、当時はまだ三十代の若手で、本作で評価を一気に高めました。
オリジナル『サスペリア』は、とにかく、開始直後から、観る者の不安を煽る絶妙な「インサート」と「カット割り」、そして現実を完全に無視した、赤と緑、青の「ライティング」で、残酷描写なのになぜか美しいという、そこも話題になった映画でした。
主演のジェシカ・パーカーは、ハリウッドでも、当時アイドル的人気の女優さんで、お目々ぱっちりの、お人形さん的ルックスですが、日本人受けはそれほどでもなかったと記憶しています。
まず、オリジナル版のあらすじを。
ジェシカ・パーカー演じる主人公が、アメリカからドイツの全寮制名門バレエ学校に留学して来ます。その学内で、生徒さん達(バレエ少女達)が、無惨な死体で発見されたり、失踪したりが続き、親友までもが行方不明!自らも身の危険を感じ、調べて行くと、この学園には驚愕の秘密が....。
100分の映画を3行にまとめたね(笑)
要は、ビジュアルだけで言うと、きれいなお嬢様系の女の子達が、バッサリと殺られて行く様を見せていくという、趣味のいい(?)映画なわけです。
しかし、この映画、どういうわけか、「また」観たくなる。
ホラー映画なんか、一度観れば、「脅かしどころ」も、ばれてるし、それこそ結末わかって観るもんじゃないでしょうが、なぜか2度目も3度目も、じっくり観てしまう。
なんだろう?全体の雰囲気がそうさせる、としか言いようが無いんですが。
その雰囲気に、一役買っているのが、プログレッシブロックバンド、ゴブリンが手がけたサウンドトラックです。
一度耳にすると忘れられない『メインテーマ』は、いまだにオカルト系映像のBGMとして定番の、マイク・オールドフィールド『チューブラ・ベルズ』(エクソシストのテーマ)に唯一対抗し得る、名テーマ曲です。
公開当時からその評価は高かったのですが、時を経る毎に、『サスペリア』の怖さは、ゴブリンのサウンドがあってこそ、というのは定説と化しました。
要は評価の定まったクラシック曲に近いイメージ。
そこに、「サスペリアのリメイク撮るから、お前映画音楽頼むわ?」って言われたトム・ヨークの心中って、「おいおい、マジ勘弁してくれよ」以外無かったはずです。
あの『サスペリア』をリメイクする?それだけでも、どれだけのファンを敵に回す行為か。そしてゴブリンの名サウンドトラックと絶対比較されるわけです。
そもそも、このジャンルのリメイク映画が、オリジナルより評価を得るって今までありましたか?『悪魔の棲む家』『オーメン』『キャリー』『悪魔のいけにえ』『死霊のはらわた』『13金』『エルム街の悪夢』などなど。
どれもオリジナルより、CG・特撮が進歩した分、怖さも倍増かと言うと、何だか拍子抜けでしたよね?ハリウッド版『リング』や『呪怨』より、最初のやつが怖かったでしょ?
つまり、どんながんばっても、映画の評価によっちゃ、自分のキャリアに泥を塗るリスクも高い。
それでも、トム・ヨークはこの仕事を引き受けました。
それほど、『サスペリア』の劇伴をやれるというのは魅力的なことなんです。
日本では公開より先に、この2枚組サウンドトラックが発売され、映画未見で、まずは聴きました。
言うまでもなく、トム・ヨークは、二十世紀末において、最も重要なロックバンドの一つだった、レディオヘッドの中心人物であり、「彼ならこういう音だろう」と映画のイメージに照らし合わせて、概ね予想はしていたのですが.....果たして??
もの凄く予想通り(笑)
うーん。そうだよな。ホラー映画というジャンルの「効果音」としての役割も考えると、セオリーからは逸脱できないわけで。いかにトム・ヨークといえども、限界はあるわけで。
でも、美しいピアノ主体の小品が繰り返される作品は「悪くない」出来でした(上から目線)。うっかりするとヒーリングミュージックになってしまうところを、見事に訴求性のある音に仕上げています。この辺りはさすがトム・ヨークです。
そして、いざ、映画で「聴いて」みると....非常に効果的なサウンドなんです!でも、場面によっては、このサウンドが余計睡魔を誘う場合も(笑)
あ、映画をディスってるわけじゃないですよ。ただ、もう、これはリメイクってより別モン。娯楽映画じゃないです。完全に芸術映画!視聴中、何度も置いて行かれそうになります(T_T)
オリジナルには無い視点、まだベルリンの壁が存在していた、当時のドイツの政治背景も重要な意味を持ちます。実際、ルカ・グァダニーノ監督は、「なぜ今リメイクなのか?」との問いに、「国家権力で巨大な壁を建造しようとしている、トランプなんて男が大統領の時代だから」と答えています。
映画は、オリジナルの設定と枠組みだけを継承し、完全に中身は別物。サウンドトラックは、ゴブリンの土俵では勝負せず、より、アコースティックなアプローチを組み立てたわけです。
特にテーマにあたる3)『Suspirium』と、13)『Unmade』の2曲は秀逸!深く印象に残ります。
ちなみに本作、オリジナルの監督、ダリオ・アルジェントには酷評されたそうです。「全然違うじゃないか!」って。でも、オリジナルの大ファンを公言している映画監督クエンティン・タランティーノは「泣いた!」と大絶賛!
うーん?つまり、タランティーノが変人なんでしょ?(笑)
最後に映画未見の方へ、万人には全くおすすめではないですが、怖い物見たさの方はぜひ!必ず、エンドロールが終わるまで、見続けましょう!
ケイズ管理株式会社 西内恵介