CDレビュー10月号『今月の1枚!』
『Tashinam』10月号の配信です。
今月はジャズ、フュージョン、そしてロック界のスーパーギタリスト達が、ジョン・コルトレーンの『シーツ・オブ・サウンド』を弾きまくるという、ギターファンなら泣いて喜ぶコルトレーン・トリビュート・アルバムの紹介です。
A Guitar Supreme『至上のギター』ジャイアント・ステップス・イン・フュージョン・ギター(2004年録音)
収録曲
①決意 Resolution
②アフロ・ブルー Afro Blue
③クレッセント Crescent
④ジャイアント・ステップス Giant Steps
⑤マイ・フェイバリット・シングス My Favorite Things
⑥ネイマ Naima
⑦ミスター・シムズ Mr.Syms
⑧セントラル・パーク・ウエスト/ユア・レディ Central Park West/Your Lady
⑨イクイノックス Equinox
⑩ヴィレッジ・ブルース Village Blues
⑪レイジー・バード Lazy Bird
⑫サテライト Satellite
メンバー
トム・ブレックライン(ds)
ラリー・ゴールディングス(organ)
アルフォンソ・ジョンソン(b)
ジェフ・リッチマン(rhythm G)
ギターソリスト
エリック・ジョンソン ①
ジェフ・リッチマン ②⑧
スティーヴ・ルカサー ③
グレッグ・ハウ ④⑦
マイク・スターン ⑤⑨
フランク・ギャンバレ ⑥⑪
ロベン・フォード ⑩
ラリー・コリエル ⑫
個人的には、オムニバス盤や企画物、トリビュートアルバムなどは、あまり好きではないのですが、ここまでカッコいいと紹介せずにはいられません。
まずはコルトレーン・トリビュート・アルバムなので、ジョン・コルトレーンの紹介から。
ジョン・コルトレーン (1926年9月23日生 ― 1967年7月17日没)
アメリカ・ノースカロライナ州生まれのジャズサックスプレイヤー。
1955年にマイルス・デイビス・バンドに加入するが、それ以前はほとんど無名であり、コルトレーンの録音は少ない。
1957年、一旦マイルスバンドを退団。その後、セロニアス・モンク・バンドに加入しモンクから音楽理論を学ぶ。同年7月、NYのライブハウス『ファイブスポット』にモンクバンドとして出演。後に、この月に『神の啓示』を得たと語っている。コルトレーンはこの後、20世紀を代表するジャズの巨人として突き進む。『神の啓示』とはいったい何だったのか?
1957年アルバム『ブルートレイン』発表。
このアルバムからコルトレーンの快進撃が始まる。
1959年、歴史的名盤『ジャイアント・ステップス』発表。
1960年『マイ・フェイバリット・シングス』
1961年『バラード』
1964年『至上の愛』
その他、200枚以上のアルバムに参加。
コルトレーンの音を細かく敷き詰めた奏法を『シーツオブサウンド』と呼び、それを速いパッションで吹きまくるのが特徴。
紹介はこれくらいにしておきましょう。紹介だけで終わってしまいそうです。
それでは続きまして,そんなコルトレーンの名曲の数々をトリビュートするギターソリストと曲のご紹介です。
エリック・ジョンソン
1954年8月17日
アメリカ・テキサス州オースティン出身。
1974年スタジオミュージシャンとして音楽活動を開始。
1986年初のソロアルバム『Tones』をリリース。
1990年セカンドアルバム『Ah Via Musicom』をリリース。このアルバムが大ヒットしグラミー賞を受賞する。
ロックからジャズ、ブルースまでこなし、美しいコード進行とメロディーが特徴。
そんな彼がトリビュートするのは,このナンバー。
①決意 Resolution
コルトレーンジャズの金字塔、歴史的傑作、前人未到の成果などと表現される『A Love Supreme』(邦題:至上の愛)に収められている4部組曲の中の1曲。
テーマをあまりディフォルメせずに伸びやかなトーンでガンガン攻め立てます。
エリックが弾くと難解なこの曲も簡単に聴こえてしまうから不思議。
ラリーのオルガンが絶妙です。
ジェフ・リッチマン
アメリカ出身のギタリスト。
バークリー音楽大学でパット・メセニーに師事。
スタジオミュージシャン、アレンジャー、プロデューサーとして活躍。
このアルバムのプロデューサー兼アレンジャーそしてサイドメンとして全曲リズムギターで参加している。
彼は2曲の演奏を務めます。
②アフロ・ブルー Afro Blue
モンゴサンタマリアのヒット曲。1963年録音のアルバム『Coltrane Live at Birdland』の収録曲。この民族音楽的なモードナンバーをここまでロックフュージョンしてくれるとは…脱帽です。
⑧セントラル・パーク・ウエスト/ユア・レディ Central Park West/Your Lady
コルトレーンのオリジナルバラード。
1960年録音の『Coltrane’s Sound』の収録曲。
タイトルはコルトレーンが57年から住んでいた、セントラル・パーク西103丁目のアパートのことでしょうか。
スティーヴ・ルカサー
1957年10月21日、アメリカ・カリフォルニア州出身。
ご存知スーパーロックグループ『TOTO』のギタリスト。
ロック、ジャズ、ブルースなど全てのジャンルの音楽を弾きこなすマルチミュージシャン。
彼の演奏曲は,こちら。
③クレッセント Crescent
コルトレーンのオリジナルバラード
1964年録音のアルバム『Crescent』のアルバムタイトル曲。
原曲スローなバラードをミディアムテンポでブルージーに弾いています。
グレッグ・ハウ
1963年12月8日、アメリカ出身、ロックフュージョンギタリスト。
トーンセンターレコードの看板ギタリスト。速弾き、スウィープ、タッピングの達人。クリーントーンでのカッティングも得意。
彼がトリビュートするのは,次の2曲です。
④ジャイアント・ステップス Giant Steps
コルトレーンが達人の域に達したアルバム、1959年録音の『Giant Steps』のアルバムタイトル曲。
この曲、とてつもなく難しい。演奏するとすぐわかるのですが、平たく言うと1音に対して1コードの対応、音が変わるとコードも変わる、そして猛烈な速さで転調する。
理 論的には『コルトレーンチェンジ』と言うのですが…グレッグは簡単に弾いてしまいます(笑)ディフォルメされたテーマを徐々に戻しながら『コルトレーン チェンジ』のアドリブで徹底的に弾き込んでいきます。もうモードとコードの区別がつきません。 グレッグ・ハウの恐るべきテクニック。
⑦ミスター・シムズ Mr. Syms
コルトレーンのオリジナルマイナーブルース。
1960年録音の『Coltrane Plays the Blues』の収録曲。
グレッグ得意の詰まり気味のトーンで、半音ずらしながらアドリブ弾きまくります。
浮遊感漂うなかでのきっちりハマらない焦ったさが最高です。
マイク・スターン
1953年1月10日、アメリカ出身ギタリスト。
バークリー音楽大学出身。
1979年ビリー・コブハム・バンドに加入。
1981年マイルス・デイビス・バンドに加入。
1989年ボブ・バークとのユニット、マイク・スターン・バンド結成
1992年ブレッカー・ブラザースに加入。
何と言ってもマイルスバンドに加入した当時の、ジミヘンのようにギャンギャン弾きまくっていたスタイルが強烈。
ロックからジャズ、フュージョン、ブルースまでこなすギターヒーロー。
カリスマ・コンテンポラリージャズギタリスト。
そんな彼が弾くのは,超有名曲を含む2曲です。
⑤マイ・フェイバリット・シングス My Favorite Things
ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌。
1960年録音の『My Favorite Things』のタイトル曲。
三拍子でアレンジされて原曲がぶっ飛ぶほどのジャズチューンに編曲されている。
コルトレーンが最も愛して、そして最も多く演奏した曲。
マイクの流れるようなテーマ解釈が素敵です。
指癖のきついフレーズからアドリブが止めどなく溢れ出てきます。
⑨イクイノックス Equinox
コルトレーンのオリジナルマイナーブルース。
1960年録音の『Coltrane’s Sound』の収録曲。
コルトレーンは自分が生れた、秋分の日(昼夜平分日)を、この曲名につけた。
マイクの指癖は相変わらずですが、ここまでくると妙に安心感があるというか、このフレーズが出ると落ち着くというか…マイク・スターン指癖中毒です(笑)
後半のマイクのアタック強烈です。
フランク・ギャンバレ
1958年12月22日、イタリア系オーストラリア人、キャンベラ出身。ギタリスト。
1982年ハリウッドのGTIに入学。
卒業とともに同校の講師を務めつつ演奏活動を続ける。
1986年チック・コリア・エレクトリックバンド加入。
スウィープピッキングを極めたスピードピッキングの達人!
演奏するのは,2ナンバー。
⑥ネイマ Naima
コルトレーンが前妻ナイーマに捧げたオリジナルバラード。
1959年録音の『Giant Steps』の収録曲。
フランクはこの曲を軽やかなバラードで演奏しています。
得意のスウィープピッキングはスピード感抜群です。
⑪レイジー・バード Lazy Bird
コルトレーンのオリジナル曲。
1957年録音の『Blue Train』の収録曲。
コルトレーンが作曲家としても頭角を現してきた頃の作品。
フランクのアドリブは速いのだけれど、その音の一音々々が正確で、粒粒が揃ってます。急角度の螺旋階段を軽やかなステップで駆け降りている感じ。
ロベン・フォード
1951年12月16日、アメリカ・カリフォルニア州ウッドレイク出身。
ブルース、ロック、ジャズ、フュージョンギタリスト。
フュージョンバンド『イエロージャケッツ』のギタリスト。
ブルースギターの達人。
彼が担当するのは,ずばりブルース。
⑩ヴィレッジ・ブルース Village Blues
コルトレーンのオリジナルブルース。
1960年録音の『Coltrane Jazz』の収録曲。
ロベンお得意のブルース、心も踊ります。
アルのベースラインも最高ですね。
ラリー・コリエル
1943年4月2日、テキサス州ガルベストン出身。
ジャズ、フュージョンギタリスト。
ジャズとロックの融合に早くから取り組み、アコースティックギターを使用したジャズとクラシックの融合にも取り組んでいる。
彼はこの曲をトリビュートしています。
⑫サテライト Satellite
スタンダード曲の『ハウ・ハイ・ザ・ムーン』コルトレーンチェンジを当てはめた曲。
1960年録音の『Coltrane’s Sound』の収録曲。
ラリー・コリエルといえばフュージョンというより、ジャズロックという言葉がピッタリ当てはまる。この曲もジャズロックの泥臭い匂いがプンプン漂ってます。
今月は長々と書いてしまいましたが、このアルバムでコルトレーンを知っていただいたり、スーパーギタリスト達を知っていただいたりすると嬉しいです。
とにかく超絶変態テクニックのギタリストとコルトレーンの『シーツオブサウンド』の融合をお楽しみ下さい。
また来月お会いしましょう。
蝶道社 オーナー
紺田 晴久