みなさまこんにちは。
4月にインタビューでお世話になりましたBARBのsax、門田”JAW”晃介です。
前々回(25回)の音楽紹介コーナーを担当したYoYoとは昨年末札幌でのデュオライブをやった仲でもあります。そんなつながりもあり、今回はぼくが音楽紹介のコーナーを担当させていただきます。
今回ご紹介するのはこちら!
『SUPER FOLK SONG』
矢野顕子
矢野さんの作品の中でも人気の高いアルバムでご存知の方も多く、隠れた名盤を紹介する、といったこのコーナーの意図から外れるかもしれませんが、最近メイキングの映像がようやく再発されちょうど話題にもなっていて、ぼくなりの思い入れも混ぜながら改めてこのアルバムについて語って見ようと思います。
一応ご存知ない方のために作品についてのおおまかな説明を、、
1992年に発表された矢野顕子さんのピアノ弾き語りアルバム。日本のミュージシャンの曲を中心にカバーし矢野さん独自のアレンジがキレキレに冴えまくるアルバムで、全曲編集なし、ホールにピアノ一台を置きそれぞれ一発録りで録られた作品集。
一音一音を非常に丁寧且つダイナミックに演奏したその音楽は人の喜怒哀楽を真空パックしたかのような、親しみやすくも孤高、とても静かな佇まいなのに心踊る、朝にも夜にも、晴れでも雨でも、、人生のどんなシチュエーションにも寄り添うことができるような、そんな作品。
、、といきなり自分の主観全開で始まってしまいましたが、、
作品自体を語る文章やインタビューは既に沢山ありますので、是非いろんなレビューを見ていただくとして、、、
アルバムの発売はぼくが高校生の頃で、初めて聴いたのは発売から1~2年くらい経ってからだったでしょうか。
まさに青春真っ只中の自分がこれを聴いたのは当時アルバイトをしていたジャズ喫茶でした。
普段はジャズしかかけていないそのお店の先輩が大の矢野さんファンで、店を閉める時にだけそれまで店でかかっていたジャズからこのアルバムに変えて閉店作業をしていたのでした。
歌に出てくる日本の風景とジャズをバックボーンにした矢野さんのピアノが、まさに夜に静まったそのジャズ喫茶に絶妙にマッチして、その記憶は今でも自分の脳裏に焼き付いています。(店の窓から見えたのは中央線ではなく京王線でしたが、、、オシイ!笑)
その後自分が本格的に音楽に携わり今に至るまで、一つの指針になっているというか、今思うとこのアルバムとの出会いが自分の価値観を形作る上で大きなターニングポイントになっていたのだなと、、日本の情景を巧みに表現しつつも、ジャズのエッセンスが随所に見られるところ、和洋折衷の心地よいバランスみたいなものは、今でも自分の表現の嗜好の核になっていると思います。
収録曲
1 SUPER FOLK SONG (作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)
• 糸井重里に提供した曲のセルフカバー。原曲はアルバム『ペンギニズム』に収録。
2 大寒町 (作詞・作曲:鈴木博文)
• あがた森魚のカバー。原曲はアルバム『噫無情 (レ・ミゼラブル)』に収録。
3 SOMEDAY (作詞・作曲:佐野元春)
• 佐野元春のカバー。原曲はアルバム『SOMEDAY』に収録。
4 横顔 (作詞・作曲:大貫妙子)
• 大貫妙子のカバー。原曲はアルバム『ミニヨン』に収録。
5 夏が終る (作詞:谷川俊太郎 作曲:小室等)
• 小室等のカバー。原曲はアルバム『いま生きているということ』に収録。
6 HOW I CAN I BE SURE (作詞・作曲:フェリックス・キャヴァリエ・Eddie Brigati)
• ラスカルズのカバー。原曲はアルバム『Groovin’(英語版)』に収録。
7 MORE AND MORE AMOR (作詞・作曲:Sol Lake)
• ウェス・モンゴメリーのカバー。原曲はアルバム『California Dreaming(英語版)』に収録。
8 スプリンクラー (作詞・作曲:山下達郎)
• 山下達郎のカバー。
9 おおパリ (作詞:イッセー尾形 作曲:矢野顕子)/span>
• イッセー尾形の劇の幕間のための曲。
10 それだけでうれしい (作詞:矢野顕子 作曲:宮沢和史)
• THE BOOMとの矢野の共同名義による曲のソロ・バージョン。
11 塀の上で (作詞・作曲:鈴木慶一)
• はちみつぱいのカバー。原曲はアルバム『センチメンタル通り』に収録。
12 中央線 (作詞・作曲:宮沢和史)
• THE BOOMのカバー。原曲はアルバム『JAPANESKA』に収録。
• 2006年、矢野のセルフカバー・アルバム『はじめてのやのあきこ』において、小田和正と共に再カバーしている。
13 PRAYER (作詞:矢野顕子 作曲:Pat Metheny)
全曲を通しての流れが一つの物語を構築しているかのようです。
メイキング映像として撮影された”SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女”は6月に待望の再発となりました。
映像の方では制作に際しての葛藤が生々しく映っていて、画面のこちら側まで緊張感と気迫がひしひしと伝わって来ます。何かを作ることに携わる方には是非アルバムとあわせてこの映像も観ていただきたい作品。
あの音の包容力は自分に対する厳しさに裏付けられた優しさだったのだというのがとても納得できる映像作品です。
そしてこの中のインタビューでも皆さんが口を揃えて”カバーでありながら矢野顕子の曲になっている”とおっしゃっているというのが、本当に素晴らしいことだなと、ミュージシャンの端くれとして思うのです。
音楽を自分の中に取り入れて、その人のひととなりが音の中に溶け出し、そして出力されるというのは、意図している、していないに関わらず音楽が奏でられるプロセスには多かれ少なかれ必ず付いて回る訳ですが、表面的になぞらえるだけでなく、一度解体して自分流に再構築するというのは曲を深く愛し理解した上でないと出来ないことです。
そういった意味で矢野さんのカバーというのはこの作品をはじめいつも本当に凄いなと思うのです。
、、などと偉そうな口を叩いた後に非常に恐縮ですが、、、
このアルバム最後の”PRAYER”はぼくも自身のバンドBARBでもカバーさせていただきました。
(これを今回の隠れた名盤ということに、、!!)
やはり前述の様な点で、とても思い入れのあるものだけに色々と迷い悩みながらカバーしたのを思い出します。
ちなみに作曲者でジャズギタリストのパットメセニーも自身で弾いている音源があるのですが(このバージョンのタイトルは”INORI”)、曲のシーンごとの雰囲気が違ってとても面白い。
メセニーはサビをとてもさらっと弾きますが、矢野さんはとてもドラマチックに演出していたり。(ぼく的には矢野さんの歌うこの部分にいつもグっと来てしまうので、自分ではことさらその部分が際立つ様なアレンジに。。)
他の原曲も含め、それぞれのバージョンを聴き比べてみたりするのも面白い聴き方かもしれませんね。
そんなわけで今回は自己紹介がてら自分のルーツとなるものを紹介いたしました。
今後もまた音楽についてお話しさせていただくかもしれませんので、これを機にひとつよろしくお見知りおき下さい。
それではまた!
2017年7月 門田”JAW”晃介