音楽紹介 [23] 『ストレート・アップ』 2017年 3月号


 こんにちは、西内恵介です。大人の事情(笑)により、今月は私が書かせていただきます。ビートルズの弟分としてデビュー。その成功は、約束されていたかのように見えたのに、どこで歯車が狂ったのか? よく「悲劇のバンド」と形容される、『バッドフィンガー』の一枚を。

 

 


ストレート・アップ
 バッドフィンガー

 

 Straight Up 』
  BADFINGER  1971年

 

               

 

メンバー

ピート・ハム(guitar  piano vo )

トム・エヴァンズ(bass vo )

ジョーイ・モーランド(guitar vo )

マイク・ギビンズ(drums  vo)

                                     

プロデュース

トッド・ラングレン

ジョージ・ハリスン

 

収録曲

A

1 テイク・イット・オール(TAKE IT ALL)

 2 ベイビー・ブルー(BABY BLUE)

 3 マネー(MONEY)

 4 フライング(FLYING)

 5 アイド・ダイ・ベイブ(I’D DIE BABE)

 6 ネイム・オブ・ザ・ゲーム(NAME OF THE GAME)

 

B

1 スーツケース(SUITCASE)

 2 スウィート・チューズデイ・モーニング(SWEET TUESDAY MORNING)

 3 デイ・アフター・デイ(DAY AFTER DAY)

 4 サムタイムズ(SOMETIMES)

 5 パーフェクション(PERFECTION)

 6 イッツ・オーヴァー(IT’S OVER)

 

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Badfinger 画像元: https://goo.gl/a9a8QD

 

 

妻「ヴァレンタインデーにチョコあげたでしょ?」 

俺「…はい」

妻「ホワイトデーは10倍返しだって知ってる?」

俺「ホワイトデーなんてバブル時代の風習じゃないのか?」

妻「(スルー)…何買っていいか、わかんないんだったら、教えるよ?」

俺「いやいやいや、自分で選ぶ! 大丈夫!」

妻「大丈夫じゃないんだって、パパ、センス無いからさぁ」

俺「何だよセンス無いって」

妻「去年くれたの、これだよ?」

俺「ダースベイダーTシャツ! カッコいいじゃん?」

妻「どこで着るの? 私が? これを?」

俺「だって、ママって、ダースベイダーぽいって言うか…(パシッ!)痛っ!」

妻「暗黒面に落ちろ!!」

 

 

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Badfinger 画像元: https://goo.gl/gogeGK

 

 ロックスターにせよ、ハリウッドスターにせよ、人気も金も名誉も手に入れてしまい、それならば、もう、マネージメントも自分たちでやればいいじゃん? と、会社経営的なことに乗り出してしまうと、大抵の場合、それはうまく行きませんよね。

 

 あのビートルズでさえ、ブライアン・エプスタインという、超有能な商売人だったマネージャーを失ったあとの、ビジネス面での迷走ぶりはひどいもんでした。

 

 その迷走時代のビートルズが設立した『アップルレコード』。ビートルズ自身の他に、有望な若手アーティストを発掘し契約、メンバーが曲を提供したり、プロデュースにかかわっていました。

 

 『バッドフィンガー』も、ビートルズの弟分として(当初『アイヴィーズ』の名前でしたが)、1968年にシングル『メイビー・トゥモロウ』でアップルからデビューしたバンドです。

 

 彼らは、同年、シングルと同名のデビューアルバムを完成させます。

 

 ところが、当時のアップル、経営ぐちゃぐちゃでした。ビートルズがあれだけ売り上げているのに、倒産寸前の有様です。

 

 そこでビートルズの要望で、新社長に就任した(ビートルズマネージャーの)アラン・クラインは、諸問題をクリアにするまで、ビートルズ以外、一切のレコードリリースをやめてしまいます。

 

 せっかく完成したデビューアルバムは、本国イギリスや、最大のマーケットであるアメリカでは、発売されないという、憂き目に遭います。

 

 ケチのついたデビューの翌年、メンバーチェンジを経て、仕切り直しとしてバンド名を『バッドフィンガー』と改名。再デビューアルバムは、ポール・マッカートニーがプロデュース。アルバムに収録された、ポール作の『カム・アンド・ゲット・イット』がヒットしました。

 

 メンバーは、自作曲のヒットではないことが不本意だったようですが、世間的には『ビートルズの弟分』を印象付け、注目を浴びるきっかけになったのです。

 

 

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Badfinger 画像元:https://goo.gl/sIYwh0

 

 1970年に、セカンドアルバム『ノー・ダイス』を発表。のちに、マライア・キャリーなど180以上(ウィキ記述)ものアーティストにカバーされることになる、名曲『ウィズアウト・ユー』を含む名盤です。この曲はシングルカットされませんでしたが、シングル『ノー・マター・ホワット』も、トップ10入りする大ヒットとなり、いよいよアメリカ進出に踏み出します。

 

 バンドは、アメリカでのマネージメントを、スタン・ポリーという男に託します。

 

 スタン・ポリー。こいつがくせ者。

 

 表の顔は、ニューヨークショービズ界の、やり手マネージャーなんですが…。

 

 1971年秋、ヒット映画『真夜中のカウボーイ』の主題歌などで、人気のあったシンガーソングライターのニルソンが、先の『ウィズアウト・ユー』を、初めてカバーし、シングルリリース。これが当時としては破格の80万枚を超える、大ヒットとなり、全米、全英、その他各国で1位を獲得。

 

 当然、バンドのオリジナルヴァージョンも注目を集めます。タイミングよく、同年冬には本作、サードアルバム『ストレート・アップ』がリリース。シングルカットされた『デイ・アフター・デイ』は、ビルボード4位と、バンド史上最大のヒットを記録します。

 

 それぞれの曲のソングライター、ピート・ハムとトム・エヴァンズは、これでもう俺達もスターの仲間入りだと確信したはずです。『ウィズアウト・ユー』の印税だけで、一生食っていける額を、手に出来るはずだったんです。

 

 出来るはず? ですよね?

 

 しかし、儲かったのは、マネージャーのスタン・ポリーでした。

 

 スタンは、バンドとのマネージメント契約の際、一切の利益は、バンドとスタンが共同で設立した会社(実質的にはスタンの会社)に入るようにしていました。通常は、作者に支払われるべき『印税』も全てです。バンドはこの会社から給料をもらうだけ!

 

 この不当な契約に、バンド側が気付いたときには、すでに時遅し。しかし、スタンを切ろうにも、全ての資金はスタンが握っているわけです。

 

 4枚目のレコーディングに取り掛かった際、スタンは、アップルとの契約があるにもかかわらず、大手のワーナーブラザーズとの、大型契約交渉を進めてしまいます。

 

 当然、アップルは激怒し、バンドが9ヶ月かけて完成した自信作を約1年放置。最終的にリリースはしたものの、プロモーションもせず。売上は伸び悩みました。

 

 1974年、バンドはワーナーに移籍。心機一転のはずだったんですが…。

 

 

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Badfinger 画像元: https://goo.gl/yzPH4T

 

 ワーナーは、レコーディングの支度金として、スタンの会社に10万ドルを渡します。ところが、この資金が、あっという間に使途不明金として消滅。のらりくらり逃げるスタンに、ワーナーも激怒、バッドフィンガーのレコード販売は全て差し止められ、レコード店店頭から消えてしまいます。

 

 そして、ワーナーは、バンドとスタンに対して訴訟を起こします。のちに、スタンは、犯罪組織のマネーロンダリングにも関わっていたことが発覚します。

 

 実質的にバンドのリーダーであった、ピート・ハムは、経済的にも精神的にも、いよいよ追いつめられました。そして、もう1ヶ月待てば娘が誕生するという時、1975年4月に首吊り自殺を遂げます。「(スタン)ポリーを道連れにする」という遺書を残して。27歳でした。

 

 その後、バンドは残ったメンバーと新メンバーで、数年後に復活を遂げますが、パッとしません。おまけに『ウィズアウト・ユー』という、巨大な利権を産む1曲を巡って、メンバー間で訴訟にまで発展してしまいます。

 

 そんな状況が限界だったのか、トム・エヴァンズは、1983年、自宅でピート同様、首を吊ります。

 

 つまり名曲『ウィズアウト・ユー』は作者の2人が2人とも、首吊り自殺で最期を遂げた、悲痛な1曲でもあるのです。

 

 ロックの歴史においても、『悲劇の』と形容される出来事が、いくつかあります。先月の原稿に登場した、スティーヴィー・レイ・ヴォーンのヘリコプター事故死や、メンバー3人が、飛行機墜落事故に巻き込まれたレーナード・スキナードなど。

 

 いかにロックスターといえども、不慮の事故は避けられません。

 

 さて、バッドフィンガーの場合はどうでしょう? マネージメントがしっかりしていれば、こんなことには、ならなかったですよね。狡猾な相手の策を見抜けなかった、自業自得なのかもしれませんが、22、3の若造ですよ? 事故でも不測の事態でも無いだけに、余計、悲劇に感じてしまいます。

 

 本作は、こんな運命を辿るとは、誰もが思っていない、最高の状態のバッドフィンガーを、ポップミュージックの神様、トッド・ラングレンが見事に引き出した、最高傑作です。少々大仰なのは、トッドだからしょうがない! 珠玉のポップロックアルバムを、ぜひお聴きください。

 

 

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Badfinger 画像元: https://goo.gl/A79VZ5

 

                                                              ケイズ管理(株)西内恵介

 

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