CDレビュー12月号 今月の1枚!
あれ? 隔月じゃないのお前は? と、言わないでください。クリスマスアルバムをやりたいというワガママを聞いていただきまして、今月も西内恵介がお届けいたします。
『クリスマス・ギフト・フォー・ユー』
フィル・スペクター
『A CHRISTMAS GIFT FOR YOU』
PHIL SPECTOR (1963年)
プロデュース:フィル・スペクター
参加アーティスト:
ダーレン・ラブ
ザ・ロネッツ
ボブ・B・ソックス&ブルージーンズ
ザ・クリスタルズ
収録曲
1 ホワイト・クリスマス(ダーレン・ラブ)
2 フロスティ・ザ・スノウマン(ザ・ロネッツ)
3 聖メアリーの鐘(ボブ・B・ソックス&ブルージーンズ)
4 サンタが町にやってくる(ザ・クリスタルズ)
5 そり滑り(ザ・ロネッツ)
6 マシュマロの世界(ダーレン・ラブ)
7 ママがサンタにキッスした(ザ・ロネッツ)
8 赤鼻のトナカイ(ザ・クリスタルズ)
9 ウインター・ワンダーランド(ダーレン・ラブ)
10 人形のパレード(ザ・クリスタルズ)
11 クリスマス(ダーレン・ラブ)
12 ヒア・カムズ・サンタクロース(ボブ・B・ソックス&ブルージーンズ)
13 きよしこの夜(フィル・スペクター&アーティスツ)
(11月発売になったベストCD・DVD『ザ・ビートルズ1』をかけていた朝のこと)
妻「もうすぐクリスマスだね」
俺「そうだね」
妻「あ、これ、キャント・バイ・ミー・ラブ!」
俺「うん」
妻「愛はお金じゃ買えないってことでしょ?」
俺「そうだね」
妻「だから男はいくつになっても子供なの!!」
俺「うん?? どういうこと?」
妻「愛なんか、形になって売ってるの! 大丸とか三越とか行けば!」
俺「はぁ??」
妻「まぁ、西友なんかじゃ売ってないけど、パルコには売ってるかな?」
俺「....えーと....あ、そろそろ仕事に....」
妻「愛を、くぅださーい!(song by辻仁成)」
俺「ゴメンゴメン、じゃーね、行ってきます!」
妻「.....」
(そして妻はおもむろに、娘に電話)
妻「もしもし?ねぇ、一緒にサツエキ行かない?
うん? あぁ、パパのカード抜いといたから、大丈夫大丈夫!」
俺「!!!!」
さて、今回ご紹介するのは、名盤中の名盤かつスタンダード。クリスマス時期には、必ずこのアルバムの収録曲を耳にされているはずです。しかし、アルバムを通して聴いたことは無い、と、いう方が多いのではないか?そんな一枚です。
お子様向けの童謡集じゃありません。大人にこそ聴ける完成度になっています。そしてある意味『コンセプトアルバム』のハシリといえます。
プロデュースはフィル・スペクター(Harvey Phillip Spector)。まさに泣く子も黙る、名音楽プロデューサーの一人です。ただし相当の変人でヤク中。ただいま殺人罪(銃の暴発による)で、19年喰らい、塀の中の人です。おそらくもうシャバの空気を吸うことは難しいでしょう。収監された時70歳近かったし。
現役時代もゴシップには事欠きません。ジョン・レノンのソロアルバムをプロデュース中、意見の対立したジョンに拳銃を突きつけたというのは、ウィキにも記述ある有名な話。ロネッツのリードシンガー、ロニー・ベネットと2回目の結婚時には、彼女を自宅でほぼ軟禁。単身外出させる時は、必ず監視役を同行させるという異常ぶり。そりゃ、あっという間に破局です。
ビートルズの『レット・イット・ビー』を、こってこての装飾過剰アルバムにしてしまい、ポール・マッカートニーからは発売中止を求められ、ジョージ・マーティンからは失敗作とこき下ろされたのも、世界中が知るところ。
しかし、のちに出された、『レット・イット・ビー・ネイキッド』という、装飾無しの『本来の姿』のアルバムを聴いた時に、多くの一般リスナーは、内心こう思ったはずです。
「あれ? フィル・スペクターのやつの方が良くね?」
アウトテイク集みたいですよね『ネイキッド』。ポールが「これが待ち望んでいた音なんだ」って力説しても、どうにもショボいんだも。
ウォール・オブ・サウンド。『音の壁』と言われる音作り。シンプルなポップナンバーに、ストリングスや、複数のギター、鍵盤、コーラスが加わえられ、深いエコーで『音の壁』が完成。ハイレベルな演奏家の起用と、偏執狂的なテープダビングで、当時の録音機材を考えると、信じられない音数が詰まった楽曲達。
このアルバムでも、それは変わりません。誰もが知るスタンダードなクリスマスソングが、気の利いたポップナンバーに生まれ変わり、彼が手がけた一流の歌い手達が、キュートに歌います。
参加アーティストはこの4組です。
1)ダーレン・ラブ
DARLENE LOVE
エルビス・プレスリー、サム・クックらのバックシンガーとして活躍。2014年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞映画『バックコーラスの歌姫達』にも出演。2011年ロックの殿堂入り。女優業もこなし、映画『リーサルウェポン』で、主演メル・ギブソンに振り回される相棒の黒人刑事(ダニー・グローバー)の奥さん役というとピンと来ます?
2)ザ・ロネッツ
The Ronettes
ヴェロニカ(ロニー)、エステルのベネット姉妹と、その従姉妹、ネドラ・タリーの3人によるガールズグループ。『ビー・マイ・ベイビー』が大ヒット。2007年ロックの殿堂入り。
3)ボブ・B・ソックス&ブルージーンズ
BOB B. SOXX AND THE BLUE JEANS
アルバム唯一の男性ヴォーカル、
ボビー・シーンをリードシンガーに据えて、スペクターお抱えの女性バックシンガーを配したグループ。ボビーはのちにコースターズに参加。
4)ザ・クリスタルズ
The Crystals
女性4人によるコーラスグループ。
スペクターの自主レーベル、フィレスの第一弾アーティストとして、『恋のアップタウン』などヒット曲を連発。
バンドは、ドラム:ハル・ブレイン、ギター:バーニー・ケッセル、鍵盤:レオン・ラッセルなど『レッキング・クルー』と呼ばれる、名手ぞろいのスタジオミュージシャン達です。
後世、ジャクソン5やマライア・キャリーのバージョンが大ヒットした、ゴスペル調アレンジの『サンタが町にやってくる』は、このアルバムが元祖。
『そり滑り』『マシュマロの世界』には、身体がウキウキ(笑)揺れ出すこと請け合いです。
LPではここでB面。『ママがサンタにキッスした』『赤鼻のトナカイ』と最強ソングが連続します。そして、収録曲中、唯一のオリジナル、ダーレン・ラブによる『クリスマス』で、ハイライトを迎えます。彼女の素晴らしいパフォーマンスに酔いしれましょう。オリジナルといっても、現在ではカバーバージョンが山ほど存在しますし、映画『グレムリン』の挿入歌でもあるので、聴けば「あー、この歌か」という感じかと思います。
一家に一枚、そして子から孫へと(笑)代々伝えていいアルバムです。子供の歌のはずなのに、どうして心に響くんだ? それは、あなたが子供だった時代を思い出させるから。じっくり聞き込むほどに涙しますよ。メリークリスマス!
ケイズ管理(株)西内恵介