音楽紹介 [2] 『Arriving soon』 2015年6月号

 『Tashinam』タシナム6月号の配信です。

今月はイタリアの若きアルトサックス奏者マッティア・チガリーニのファーストアルバム『アライヴィング・スーン』をご紹介いたします。 
 

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画像元 : Amazon.co.jp – Arriving soon


『Arriving soon』Mattia Cigalini

 2009年5月録音(イタリア ラヴェンナ)

メンバー
マッティア・チガリーニ(as)
ファブリッツィオ・ボッソ(tp)
アンドレア・ポッツァ(p)
リカルド・フィオラヴァンティ(b)
トゥーリオ・デ・ピスコーポ(ds)

スペシャルゲスト
ステファノ・セラフィーニ(tp,flh) #5,7,9

 

『アライヴィング・スーン』収録曲

1.アライヴィング・スーン
2.リサ
3.ブルー・マイナー
4.ニュー・デリー
5.ディスティネーション
6.ホィール・ウィズイン・ア・ホィール
7.ボヘミア・アフター・ダーク
8.チガー・スモーク
9.イフ・ユー・ビリーブ
10.サムバップ

天才ファブリッツィオ・ボッソとベテランのリズム隊をバックに従えて、マッティア・チガリーニが縦横無尽に吹きまくる、そんなコンセプトのアルバム、とにかくカッコイイの一言。ボッソとチガリーニのアドリブの絡みも聴きどころ。
ハード・バップの真髄です。

まずはメンバー紹介から。

 マッティア・チガリーニ
   録音当時20歳のイタリアが生んだ若きアルトサックス奏者。
12歳からステージプレイをおこない、すでにイタリアのトッププレイヤー達と多く共演して、ジャズや映画音楽をはじめとする多くのスタジオワークをこなしている逸材で、伝統あるマッシモ・ウルバニ賞、その他各賞受賞のイタリアン・ジャズ界期待の星です。フェイヴァリットはキャノンボール・アダレイ。

 ファブリッツィオ・ボッソ
   いまさら説明など不要かもしれません、イタリアの天才トランペッター。 今やジャズファンのみならず、クラブ系ファンの支持も高い、イタリアンハードバップグループ『ハイファイブ』のリーダーで現役最強のトランペッターです。

 アンドレア・ポッツァ
   1965年生まれで13歳からプロ活動を始めた、楽歴35年以上のイタリア出身のベテランピアニストです。ジョージ・コールマン、ジョニー・グリフィン、ジョー・チェンバースなどがよく指名している奏者で、フェイヴァリットはウィントン・ケリー、レッド・ガーランド。

 リカルド・フィオラヴァンティ
   日本ではあまり知られていない存在ですが、リーダーバンド『リカルド・フィオラヴァンティ・トリオ』『リカルド・フィオラヴァンティ・カルテット』などで活動しています。ビル・エバンスのトリビュートアルバムなども録音している、イタリア出身ベーシストです。

 トゥーリオ・デ・ピスコーポ
 イタリア出身ドラマーですが、残念ながら詳細は不明です。

 ステファノ・セラフィーニ
 3管をフロントにして活動中の『ジャズライフ・セクステット』のメンバーである、イタリア出身のトランペッターです。このアルバムでは#5,7,9曲目にゲストとして参加しています。

 

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画像元 Wikimedia Italia – Mattia Cigalini nel 2013

 天才ボッソがベテランリズム隊を集めてきて、若いチガリーニに「サポートするから、好きに吹いていいぞ」っていう感じで作ったアルバムです。バックはボッソ率いる『ソウル4』のメンバーが固めています。

 とにかくボッソとチガリーニの絡みがカッコ良すぎです。ボッソのクラッシック奏者のような綺麗な音は斬れ味バツグンだし、チガリーニの中音から高音にかけての詰まり気味の音が最高にエキサイティング。とにかくハードバップ一直線、古き良き時代のハードバップに現代的なエッセンスが加わって、最高の仕上がりになっています。

 何か楽しいことがあった時や、仕事が順調に進んでいる時、素敵なことが起きそうな予感のする時、そんな日の午後に聴くと最高のアルバムです。楽しい時はハード・バップを聴いて、心を高揚させましょう。

 
 それでは簡単に曲のご紹介。

 1曲目はアルバムタイトル曲の『アライヴィング・スーン』、チガリーニの尊敬するキャノンボール・アダレイの59年録音の『キャノンボール・アダレイ・プラス』に収められているナンバー。チガリーニの無伴奏ソロからスタートします。チガリーニは1曲目からエンジン全開で、アドリブ吹きまくってます。

 

 2曲目4曲目も同じキャノンボールのアルバムに収められているナンバー。
チガリーニは間髪入れずに、頭からガンガン突っ込み気味にアドリブに入ってきます。けっしてモタれません。当たり前ですが、リズム隊は走りません。(そりゃプロですから) ミュートの効いたボッソのトランペットが美しい旋律を奏でています。

 

 3曲目『ブルー・マイナー』はソニー・クラークの『クール・ストラッティン』に収められているナンバーで、日本ではあまりに有名。ハード・バップを代表する名曲です。4バースで廻すボッソとチガリーニのアドリブに説得力を感じます。

 

5曲目『ディスティネーション』はゲストのステファノ・セラフィーニのオリジナルです。イントロのベースラインがクール。

 

7曲目『ボヘミア・アフター・ダーク』この曲はフロリダ出身のキャノンボールがニューヨークに来てクラブの飛び入りで演奏した曲。この演奏で一夜にしてニューヨークのスターになったのは有名です。フェイヴァリットのキャノンボールに捧げた1曲です。

 

8曲目『チガー・スモーク』チガリーニのオリジナル。
彼は作曲も素晴らしいです。
ボッソとチガリーニの火の出るようなアドリブの掛け合いが壮絶!
このアルバムのベストな1曲。それにしてもテーマがトリッキーで難しい。

 

9曲目『イフ・ユー・ビリーブ』続けてチガリーニのオリジナル。
ゆったりしたボサノバのナンバー。イントロのピアノが美しい。
イタリア人は歌心があるので、こういう曲を演奏すると最高ですね。
チガリーニのアルトが歌ってます。心に浸みる1曲。イタリアンジャズ万歳!

ラストナンバー『サムバップ』これもキャノンボールが得意とした曲。
サンバ+バップ=サムバップ、造語です。
明るく楽しい曲ながら、熱いアドリブのリレーが聴きどころ。

 

 イタリアのジャズミュージシャンも有名になってくると、活動拠点をニューヨークに移す人が多いのですが、やっぱり全体的に演奏がニューヨークっぽくなっていきますね。その点、イタリアに残って活動しているミュージシャンは歌心満載で楽しいですね。今後もイタリアンジャズの伝統を守ってくれる若手ミュージシャンの台頭に期待していきたいです。

ウェブマガジン『Tashinam』タシナム まだまだ始まったばかりです。
来月もCDを紹介させて頂きます。
今後も応援よろしくお願い致します。

蝶道社オーナー
紺田晴久