音楽紹介 [76]『ARCHIE・SHEPP/LIFE AT DONAUESCHINGEN MUSIC FESTIVAL』

読者のみなさまお久しぶりです。タシナムオーナーの紺田です。一年ぶりのCDコラム執筆で腕が鈍りに鈍っておりますが、どうか優しき心でお読みくださいませ。

コロナ終息に微かな希望が見えてきたと思ったら、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、いつになったら平和な時間を取り戻せるのかと不安で一杯になってしまいます。しかし自分の力でどうしようもないことは考えても仕方がないのかもしれません。とにかく自分のできることに努力するしかありませんね。みんなで平和を祈りましょう。

『ARCHIE・SHEPP/LIFE AT DONAUESCHINGEN MUSIC FESTIVAL』
アルバム邦題『ワン・フォー・ザ・トレーン』

今月は1967年10月に開催されたドイツのドナウエッシンゲン音楽祭でのライブ録音CDの『Life at the Donaueschingen music festival』邦題は(ワン・フォー・ザ・トレーン)タイトルのLife at…これは間違いではありません。よくLive at…と勘違いされているリスナーが多いです。何を隠そう私も以前はその一人でした(笑)

それではアーチー・シェップの経歴を簡単に紹介します。1937年5月24日フロリダの生れ。父親がバンジョー奏者でデキシーバンドで働いていた影響で、プロの音楽家を目指す。当初はアルト、クラリネットを演奏していたが、コルトレーンを聴いて全身にカミナリが落ちたらしくテナーに転向。

1960年にセシル・テイラーのバンドのメンバーとなって頭角を現すようになったようです。この頃のテイラーとシェップはNYのジャズクラブで一曲2時間以上演奏したり、テイラーは肘や拳でピアノと格闘するなどして、NY市内のピアノを20台以上破壊し出入り禁止が止まらない状態(笑)当時のフリージャズは凄いですね。その後は師匠コルトレーンとのレコーディングや共演も多数です。

画像出典:Jazz Times

さて今回ご紹介のアルバムですが、コルトレーンが亡くなって3ヶ月後のライブ演奏です。67年の演奏ですからまだまだフリーの戦士という感じの演奏です。一曲目「ワンフォーザトレーンパート1」二曲目「ワンフォーザトレーンパート2」となっていますが、これは当時レコードのA面とB面に入れるために無理矢理半分にしただけで、もともとは一曲です。

そうなんです、一曲44分11秒(笑)現在なら商業ベースに乗らないとか言われてレコードにならなかったですね。なんと素敵な時代なのでしょうか。編成についてはtbが2本、シェップのts、ジミーギャリソンのb、そしてビーバーハリスのds。出だしはベースのイントロというかアドリブというか、フリーにしてはゆったりした演奏でギャリソンは弓も使います。5分50秒後からドラムがリズムを刻みだします。

そして破壊王シェップがオラオラオラ〜という感じで参戦し、その後はシェップのやりたい放題(笑)師匠コルトレーンが亡くなってまだ3ヶ月ですから、タイトル通りコルトレーンばりのブロウや唸りが凄まじいです。シェップの根底にあるブラックミュージック、ブルース、そしてフリージャズの思いを全て吐き出すようなアドリブ、そんな演奏が延々と続きますが、ギャリソンとハリスのリズム隊がしっかりしているので、シェップの暴走はギリギリのところで食い止められています。そして後半、このアルバムの最高の見せ場「いそしぎ」のテーマが流れてきます。

ここら辺がこのアルバムの最高潮の破壊と創造。カタルシスからのいそしぎがクセになります。(多少の中毒性有り)私はこのアルバムを聴くたびに「いそしぎ」のところで心が浄化されます。ただし、ジャス初心者や良い子はいそしぎにたどり着く前に神経に異常をきたすかもしれませんので、聴き方には充分にお気をつけてください。

今月はフリージャズ全盛期の名盤のご紹介でした。またお会いしましょう。ありがとうございました。

蝶道社オーナー  紺田 晴久