音楽紹介 [70] 『Time Warp』

70年代から現在に至るまでのジャズの歴史を大きく変えた米国のピアニスト、キーボード奏者、作曲家、ミュージシャン、音楽プロデューサーであるチック・コリア(Chick Corea、本名:Armando Anthony Corea)が2021年2月9日に癌のため死去
1941年6月12日生まれで、享年79歳。

学生の頃からチックのアルバムはほぼ全て聴いてきたので、訃報を聞いて大きなショックを受けました。私の青春時代そのものだったからです。

出典:Chick Corea https://bit.ly/3ce3ECG

チックの経歴に少し触れてみたいと思います。
高校卒業後に名門のジュリアード音楽院に進学、20歳になった頃にはモンゴ・サンタマリアのバンドで最初のレコーディングに参加しています。
その後もラテン音楽のレコーディングに数多く参加していたようです。
その後、チック28歳の時にマイルス・デイビス・グループへの加入という大きな転機が訪れます。そこでアルバム「イン・ア・サイレント・ウェイ」(1969年)や「ビッチェズ・ブリュー」(1970年)などに参加します。


これらのアルバムはジャズをエレクトリックに転換させた歴史的名盤と言われています。この当時はまだフュージョンという言葉はなく、エレクトリック・ジャズとかジャズ・ロックと言われていました。この頃チックはフェンダー・ローズというエレクトリック・ピアノを演奏しています。その後のチックのフュージョン路線に大きな影響を及ぼす楽器です。


1972年にチックは歴史的名盤と言われる「リターン・トゥ・フォーエバー」を発表。
やがてこのアルバムタイトルがチック・コリア&リターン・トゥ・フォーエバーというバンド名になります。このバンドのセカンドアルバム「ライト・アズ・ア・フェザー」に収録されている「スペイン」は世界的な大ヒットによりチックの代表作となり、現在ではジャズスタンダード曲として全世界で演奏される存在です。その後、リターン・トゥ・フォーエバーはフュージョンブームの影響もあり1977年に解散するまで大成功を収めました。


チックはその後も師匠マイルスからの影響なのか、演奏スタイルをどんどん変化させていきます。

出典:Chick Corea https://bit.ly/3lZThpD


チック・コリア・エレクトリック・バンド
チック・コリア・アコースティック・バンド
チック・コリア&オリジン
ソロ活動
デュオ活動
トリオ
カルテット、などなど


大まかに別けるとこんな感じですが、師匠マイルスと違う点は、これらを同時進行でやってのける事です。師匠マイルスに負けないくらいの天才ですね。

今回ご紹介するアルバム「タイム・ワープ」はカルテットに分類される1枚です。

チック・コリア・カルテット『TIME WARP』

1.ワン・ワールド・オーヴァー(プロローグ)
2.タイム・ワープ
3.ザ・ウィッシュ
4.テナー・カデンツァ
5.テレイン
6.アーンドクス・グレイブ
7.ベース・イントロ・トゥ・ディスカヴァリー
8.ディスカヴァリー
9.ピアノ・イントロ・トゥ・ニュー・ライフ
10.ニュー・ライフ
11.ワン・ワールド・オーヴァー

チック・コリア(p)
ジョン・パティトゥッチ(b)
ゲイリー・ノバック(ds)
ボブ・バーグ(ts.ss)
1995年カルフォルニアにて録音

このアルバムはチックが書いた物語の組曲という構成で出来ています。
その物語はアルバムジャケットに和訳で書かれているのですが、少々難解(笑)
ただし、物語なんて理解できなくてもアルバムは全曲素晴らしい内容です。

出典:Chick Corea https://bit.ly/3ccW63c

1.ワン・ワールド・オーヴァー(プロローグ)
曲名通りこの物語(アルバム)のプロローグで、最後の曲のモチーフになっている。

3.ザ・ウィッシュ
チックのピアノからイントロ&テーマで始まるが、続くボブ・バーグのテナーの音色が最高に美しい、何度聴いても只々美しい。このアルバムで一番重要な曲。

8.ディスカヴァリー
ボブ・バーグはソプラノサックスを演奏、このアドリブがまた最高に美しい。
前の曲のベースイントロとは組曲。

10.ニュー・ライフ
この物語(アルバム)にたびたび登場するテーマが何度も繰り返される少しクセになりそうな曲。後半はゲイリーのドラムソロからやっぱりクセになるテーマへ続く。前の曲のピアノとは組曲。
よくこのアルバムを同じカルテット編成の「フレンズ」や「スリーカルテット」と比較するコメントを見ることがありますが、しかし演奏内容は全然違います。
上記の2枚はもちろんアコースティック、このアルバムもアコースティックではあるのですが、フュージョンの香りがプンプン伝わってくる不思議な感覚。
最後まで聴き終えると、やはり組曲構成からなのか、一つの物語を聴いたような感覚におちいります。

このアルバムで存在感バツグンのボブ・バーグも2002年交通事故により51歳の短い生涯を終えています。


今ごろチックと一緒にセッションでもしているのでしょうか…

2021年3月21日
株式会社 蝶道社
代表取締役 紺田 晴久