株式会社 満寿屋商店 代表取締役社長 杉山 雅則 インタビュー

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  16年前の『オーガニック』 ~帯広に根ざしたパン作りへ

― 留学から戻られてからは、どうなさったのですか?

杉山「新宿の製粉会社に就職しました」

 

― そちらでは何年間、お仕事をなさいましたか?

杉山「2年とちょっとです」

 

― お辞めになったのは、何か理由があったのですか?

杉山「その時の仕事は、関東圏コンビニエンスストアのパンの新商品開発リーダーだったんです。その当時のコンビニ業界というのは非常に勢いがあって、毎週のように新商品が出る。スピード感のある現場でした。コンビニのパンは保存条件が厳しいので、添加物が多く入ります。特に日本の場合は、どんなコンディションでも絶対に腐らないようなパンを作ります。そういうパンを作っているのが嫌になって。それで、自分で軽自動車を買って、野菜を売るような仕事を自分でやろうと思って、会社を辞めました」

 

― 野菜の移動販売ですか?

杉山「野菜の卸です。契約農家さんから朝採りの野菜を頂いて、都内のベーカリーに野菜を売るという事業を始めたのですが、うまくいかなくて。その後は、実家のパンを東京の百貨店で販売するという仕事をしていました」

 

― コンビニのパンについて、初めて知りました。かつて、そういった状況があったのですね。

杉山「そうですね。そういう商品を消費者が求めていたから、メーカーはそれに応えた。食品の保存テストをするんですけれど、当時の基準は30℃の環境に置いて、72時間変質しないこと。でした」

 

― 30℃で3日間、変質しないパンですか…。

杉山「そういうパンが1日に何万食と売れるんです。それを自分で設計しているわけですから、そこには、複雑な思いがありました。必要とされているもの作っているのですが、これで良いのかな。と」

 

― 思いは複雑ですね。

杉山「製粉会社に入社したのは2000年です。ちょうど、その頃から食の安心、安全ということが注目されるようになって、スローフード、オーガニック、地産地消という言葉が知られるようになりはじめました」

 

― そういったマーケットが出来始めた頃だった。それで、野菜の販売のお仕事を始められたのですね。

杉山「野菜の販売と、食品リサイクルの両方をあわせたビジネスモデルだったんです。生産者から直接野菜を買って、ベーカリーに卸す。ベーカリーでは売れ残ったパンを集めて、食べられるものはホームレスや、食事に困っている方に差し上げる。という方法です。人が食べられないものは養豚企業さんへお渡しする。動物も食べられないものは、契約農家さんの畑へ持って行って、堆肥にしてもらう」

 

― 今、ようやくそうした動きが道内企業でも行われるようになってきました。杉山社長の試みは16年先取りでしたね。

杉山「そういったことが実現され、推奨されるようになって、良かったな。と思っています」

 

― そうした経験を経て、家業である『ますやパン』を都内で販売するお仕事を始められたんですね。

杉山「主に都内の北海道物産展に参加していました。1年くらいかけて各地を廻り、南は沖縄まで出店してきました」

 

― 各地での反応はいかがでしたか?

杉山「非常に良かったです」

 

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― その後、こちら帯広のお店へ戻っていらっしゃったのは、いつ頃ですか?

杉山「その仕事をしているうちに結婚もしまして、28歳になった年にそろそろいいかな。と思って戻りました。ちょうど、帯広を出てから10年が経っていました」

 

― 杉山社長が帯広へ戻られた時点で『ますやパン』の支店というのは、幾つくらいありましたか?

杉山「そうですね。当時、既に5店舗ありました。父は早くに亡くなっていたので、その時は母が社長をやっていました」

 

― 10年ぶりに帯広へ戻っていらっしゃって、何か感じられることはありましたか?

杉山「帯広はすごく良いところだな。と思いました。これだけ自然がある。しかも先進国の生活ができる。そういうところは、世界にも中々ないと思います」

 

― 帯広でお仕事をなさる中で、帯広気質といったものを感じられることはありましたか?

杉山「仕事の習慣というか、速度の違いを感じました。帯広は土地が広いので空間的なゆとりが十分にある。そのためか、帯広のひとは混雑をあまり好まないように思います。ここの生活の良いところは、時間と空間を自分のペースで生きることができる。ということですね」

 

― 逆に、のんびりし過ぎている! と思われることはなかったですか?

杉山「逆に、自分のペースで生きているひとは待てないことが多いんです。行列にならんだり、空間が狭いと感じることがストレスになる。時間的、空間的価値というのを持ちすぎていて、さらに、それをほとんど意識していないんだな。と思いました。こんな豊かさに恵まれているのに、この土地の価値を高めたり、発信しようとする努力が十分なされていないようにも感じました」

 

― 帯広ご出身の杉山社長ですが、10年間各地を見て回り、改めて帯広の豊かさに気づかれたのですね。そういったことが、今の『ますやパン』の経営方針にも生かされているのでしょうか?

杉山「そうですね。先ず、どういう風にしていくのが地域にとって一番いいのか考えました。うちはパン屋なので、小麦の地産地消を進めていくのが一番だと思って、使用する小麦を国産にしていくことからはじめました」

 

― 長く取り組みを続けていらっしゃった結果、『ますやパン』では十勝産小麦を100%使用したパンを作っていらっしゃるそうですね。

杉山「段階的に国産から十勝産100%使用に切替えました。小麦は政府干渉作物なので、一般の流通の中にあるものを使うことになります。大きな流れの中の一部を分けてもらう。必要な分だけ十勝産小麦を入手できて、なおかつ、品質の高いパンがこれからも作り続けられる。という見通しがつくまで、環境が整うのを待ちました」

 

― 2代目、お父様の代から始められた試みが、杉山社長の代でようやく花開いたということ。素晴らしい取り組みを成し遂げられたのですね。

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