作家 桜木紫乃さんインタビュー
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 半径5mの世界を、普通に書く。~気鋭作家の『ズレた』少女時代とは?

 

― 本日は、今、最も注目されている北海道在住の作家、桜木紫乃さんにお話をお伺いいたします。どうぞ、よろしくお願いいたします。最初にプロフィールの部分からお伺いしてもよろしいですか?

桜木紫乃さん(以下、桜木):「はい。1965年4月19日生まれです」

 

― お好きな食べ物は何ですか

桜木「お寿司と焼肉が好きです」

 

― 苦手な食べものはおありですか?

桜木「苦手なものは、ただひとつ。ホヤです」

 

― ホヤ! 道東ではホヤが捕れますか?

桜木「捕れます。釧路に和商市場という市場があるんですけど、そこで料理される前のホヤを見てから、ダメになりました。食わず嫌いなんですね。誰かホヤを美味しく食べされてくれる方がいればきっと…(笑)。ここのホヤなら大丈夫、というおすすめのホヤがありましたら、教えてください。挑戦してみたいと思います」

 

― お好きな言葉を教えてください。

桜木「座右の銘というのでもないですけど、以前、ある番組に出演させていただいたときに、好きな言葉を色紙に書くという企画がありまして、とっさに思ったことを書いたんです。それが、『普通に生きる、普通を書く』。普通って何だろう。と思って」

 

― 『普通』ですか。

桜木「普通、普通と2度言うと、それは特別ではないか? 『普通』がどれだけありがたいことなのかということを書いていけたら、それが自分の仕事なのではないかな。と思っています。書くときに、突飛なことが思いつかないので、半径5m以内にありそうなお話ばかり書いています」

 

― 『普通』を意識できる方は普通じゃないのではないか思うのですが、いかがですか?

桜木「普通を2つ並べるということは、やっぱりどこかおかしいのかな? と思うことがあります。みんなが感動しているところで自分だけ感動できないとか、そういう、小さい頃からのズレの理由を知りたくて小説を書いているところもあります。自分が特別な存在だとは思わないのですが、普通に対する憧れというか…。帳尻を合わせたいのかもしれない。書くことで帳尻が合うのであれば、書き続けようと思っています」

 

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― 周囲とのズレを感じていらっしゃった子供の頃の桜木さんは、どんなお子さんだったんですか?

桜木「家が床屋をやっていて、生まれたときから従業員さん、お弟子さんたちが私の面倒をみてくれていました。父も母も職人でしたから、子育てをするより仕事をするほうが安らげたんじゃないかと思います。あまり親と一緒に居た記憶がないですね」

 

― 職人さんの家にお生まれだったんですね

桜木「その後、15歳のときに実家がホテルを開業しましたので、結局、親に喜んでもらうことが生活の全部を占めていたような10代を過ごして、よくわからないまま、ポンと社会に出たんです。そこでまた、なんだか良く分からなくなりました。そこをうまく言葉にできるといいんですけれど」

 

― 分からなくなった。新しい生活に対する戸惑いのような感覚でしょうか。

桜木「普通、自分の子供が生まれたときに、親のありがたみが分かる、といいますよね。もちろん、それまで私も自分の親に対してすごくありがたいと思っていたんですが、いざ、自分で子供を産んでみると、それが、ちょっと違ったんです」

 

― どう違ったんですか?

桜木「自分が親だったら、こうするかな? とか、自分の子供にこういうことをさせるかな? ということが多々あったんです。たとえば、当時の親はよく子供を叩いたんですね。私もよく叩かれて育ちましたけど、私の夫は女子供に一切、手をあげない人でした。そういう日々を送るようになってから、ちょっと振り返ると、おや? と思うことが出てきて、そこでまたさらにズレたんですね」

 

― そのズレは、子供の自分と、親になってからの自分、その感覚の違いですか?

桜木「自分が今暮らしている夫や両親、親族の中で、誰が良い、悪いということではなくて、その時に見てしまったズレをなんとか修復したいと思って始めたのが小説だったんです。こんなことまで話しますか(笑)。いきなり」

 

― 桜木さんにお会いしたら、普通に生きるひとが文章を書くということが、どうやって始まるのか? について伺ってみたいと思っていました。

桜木「不思議なもんですよね。小説を書き始めたきっかけをよく聞かれるんですけれど、自分でもはっきりしたことはわからないんです。内側にあるものと、自分の見ているものと、譲れない考え方と、それらのズレを一生懸命まるくしようとしている。文章を書きながら探している。文章を書いてはいるんだけれども、いつも物語はそこにあって、その物語を掘っているような感じ。物語を掘りながら、自分のズレの輪郭をハッキリさせて、なんとかまるく。死ぬまでにまるくしたいな。と思っているんです」 

 

― どうしてその手段として『書く』という方法をお選びになったのでしょう。 小さい頃から本はお好きでしたか?

桜木「何かしら読んではいたんですけれど、始めて小説という形で面白いと思ったのが、自分の生まれ育ったところを舞台にした『挽歌』(著 原田康子)という小説です。それを読んだときに自分の住んでいるところを舞台にした小説はこんなに面白いんだ、と思いました。その時、私は14歳で、男女の機微は分かりませんでしたけれど、土地の空気を文章で感じることの面白さに気付いてしまったというか」

 

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― その頃から、いつか小説を書こうと思っていらっしゃったんですか?

桜木「直ぐに何かを書こうとは思わなかったんですけれども、そこを引きずっているんだろうな。と思います。地元を舞台に書くということは、自分の見た景色の中で、実際に動いている人達の在ったかもしれない物語を堀りかえしていく作業です」

 

― そこには想像も、見てきたことも、どちらも含まれているんでしょうか。

桜木「景色は見たものです。人は完全にフィクションです。ただ、似たような経験をしている人がいるかもしれない。半径5m以内によくある話を書いていますから(笑)」

 

― 桜木さんがお書きになる人物は、実際に身近に居そうな親近感があります。それは身近にいて見逃してしまいそうな部分が細かく描写してあるからでしょうか。小さい時から観察眼のある敏感なお子さんでしたか?

桜木「いえいえ、ぼーっとした子でしたよ。今でもぼーっとしてて、小説書くときしかアンテナが立ってない。担当者から『永遠の素人』って呼ばれてます(笑)」

 

― 永遠の素人! ですか

桜木「そう。ガツガツとやらないから? 誰も『先生!』なんて呼ばないの。ありがたいことです。付き合いの長い担当さんと自然に何冊も出版を重ねていけるということは、また次も一緒にやろうと思ってくれている、ということなので。でも、だんだん求められるものが厳しくなってきているんですけど(笑)」

 

 

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