音楽紹介 [50] 『ジョンの魂』

こんにちは、西内恵介です。昨年末、ジョン・レノンの代表作『イマジン』のリミックス豪華版と、『イマジン』の製作過程を克明に綴った、重量級の書籍『イマジン・ジョン・ヨーコ』が出版されてから、ジョンを書きたいなと思っていました。けど、『イマジン』じゃないよ(笑)初めてのソロ作『ジョンの魂』を。『イマジン』はこのアルバム無しには生まれなかったと断言します。

 

『ジョンの魂』
ジョン・レノン/プラスティック・オノ・バンド

JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND  』1970年

メンバー
ジョン・レノン(Vo Guitar Piano)/ヨーコ・オノ(Wind)
リンゴ・スター(Drums)/クラウス・フォアマン(Bass)
ビリー・プレストン(Piano on GOD)/フィル・スペクター(Piano on LOVE)
[プロデュース] フィル・スペクター

収録曲

1 マザー(母)(MOTHER)

2 しっかりジョン(HOLD ON)

3 悟り(I FOUND OUT)

4 労働者階級の英雄(WORKING CLASS HERO)

5 孤独(ISOLATION)

6 思い出すんだ(REMEMBER)

7 ラヴ(愛)(LOVE)

8 ウェル・ウェル・ウェル(WELL WELL WELL)

9 ぼくを見て(LOOK AT ME)

10ゴッド(神)(GOD)

11母の死(MY MUMMY’S DEAD)

 

※竹内まりやの「フィルムコンサート」を見終わって(以下実話)

妻「いやー、よかったわ、行こうって言われた時は、何で?って思ったけど」

俺「だろ?ダンナ(山下達郎)はそりゃ凄いけど、カミさんも負けてないんだよな」

妻「還暦過ぎてて何?あのスタイル!すっごいキレイだし、かわいいし!」

俺「歌ほめろよ」

妻「そうそう、こんな歌上手いイメージなかったんだよ。上手いねぇ」

俺「で、また、ヒット曲多いけど、改めて聴くとさ」

妻「どれもシンプルな言葉使いなのに、凄い説得力!」

俺「だよねー」

妻「でもねー.....」

俺「.....どうしました?」

妻「いや.....でも、多分、くせっ毛なんだよ」

俺「.....うん?」

妻「さらさらロングのイメージだけど、結構苦労してストレートにしてると見た!」

俺「そこ?」

妻「この人完璧!って思って、でも、どこか欠点あるだろうって、ずーっと探してたの!」

俺「.....」

妻「で、唯一見つけたのがそこ!惜しかったぞ!竹内まりや!」

 

John Lennon 画像元: https://bit.ly/2FufoQQ

 

 ジョン・レノンが自宅高級アパートメント前で射殺されたのは、1980年12月8日夜11時頃。犯人は当時25歳で失業中の既婚者、マーク・チャップマンでした。

 ジョンは背後から、5発の銃弾を浴び、そのうち2発が心臓と大動脈を貫通。享年40歳でした。

 チャップマンは発砲後、銃をその場に放り、歩道に座り込みました。逃げるそぶりは一切無かったそうです。アパートメントのドアマンが駈け寄り、拳銃を奪い確保。「おまえは自分が何をやったかわかっているのか!」と問い詰めると、冷静に「ジョン・レノンを殺したんだ」と答えたそうです。

 ハワイのホノルルで、妻と暮らしていたチャップマンは、「ジョン・レノンを殺すために」ニューヨークを訪れていました。後の捜査では、事件の2ヶ月前にもニューヨークに来ており、その際もジョンを殺す目的でしたが、断念したことがわかっています。

 事件当日の昼間、チャップマンは、音楽スタジオに向かう、車窓越しのジョンに、サインをもらっています。

 その後、現場周辺で、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読みながら潜み、夜にジョンとヨーコが戻ってきたところで、凶行に及びました。

 この一連の行動が「ジョンの狂信的なファンの犯行」との報道がなされた理由ですが、実際はファンなどでは無く、「偉大なジョン・レノンを殺せば、自分はそれ以上の存在になれる」という、狂った思い込みを、押さえ切れなかっただけの男でした。

 ロックスターなんてものが、エンターテイメントの中でしか存在できない現在では、なかなか、リアリティを持って受け止められない事件かもしれませんが、当時は、まだ、ロックスターは現実世界に大きな影響力を持ち、その中でもジョン・レノンは、やはり特別な存在でした。

 『カム・トゥゲザー』つまり、「(俺に)ついてこいよ」とか『グロー・オールド・ウィズ・ミー』、「俺と一緒に年を取ろう」って、そんな歌を真っ正面から歌っても、シャレにならない存在。それが、ジョン・レノンです。

 

John Lennon 画像元: https://bit.ly/2RwNOak

 

 時代を遡ります。

 1969年、ビートルズはアルバム『アビーロード』をリリースし、実質解散状態に。翌年春、契約消化のための、最後のアルバムとして『レット・イット・ビー』がリリースされますが、その製作は、ジョンが本作のプロデューサーでもあるフィル・スペクターに、ポールに無断で「丸投げ」したもので、ポールからは、リリース中止を訴えられるような、散々な一枚でした。

 そんな中、1970年末に、ジョンが発表した、初の(ヨーコとの共作名義じゃない)ソロ作が本作『ジョンの魂』です。実際はアルバムにタイトルはありません。「ジョン・レノン・プラスティック・オノ・バンド」のクレジットがあるだけです。

 これ聴いた担当者が、『ジョンの魂』って邦題つけたのがわかる、非常に重い内容のアルバムです。

 アルバムは、後にジョン自身が「弔鐘」と形容する、重たい鐘の音から始まります。この「弔鐘」で、ジョンは「何を葬った」のでしょうか?それがこのアルバムの重要な意味、というか、全てと言っていい、ここをこれから書いていきます。

 ちなみに、この「弔鐘」と対を為すものが、生前最後のアルバムとなった、1980年リリースの『ダブル・ファンタジー』の1曲目『スターティング・オーバー』の最初「チーン、チーン、チーン」と呼び鈴の軽い音!

 これは、「もうあの重たい鐘の音から、自分は抜け出せたよ」というジョンのメッセージでした。そう、「抜け出して、再出発(スターティング・オーバー)」だったのに、リリースから1ヶ月も経たずに、ジョンは凶弾に倒れたんです。

 

John Lennon & Yoko Ono 画像元: https://bit.ly/2Rx0G0g

 

 話を『ジョンの魂』に戻します。

 「弔鐘」のあと、アルバムは『マザー(母)』から始まります。

 タイトルの無いこのアルバムを、ジョンは「マザーアルバム」とインタビューなどで呼んでいます。とにかく、強烈で鮮烈な1曲です。

 ジョンは、実の父親が家を出て行ったあと、別の男と同棲を始めた実の母親にも捨てられ、伯母のミミに育てられました。かつ、実の母親は、ジョンが18歳の時に交通事故で他界します。

 そんな幼少期のトラウマを吐露した歌です。

 シンプルなジョン自身が弾くピアノと、旧知の仲である2名のミュージシャン、クラウス・フォアマン(ビートルズ『リボルバー』のジャケットはイラストレーターでもある彼の手によります)のベース、そして、このアルバムでは全曲神憑り的なプレイを聴かせる、リンゴ・スターのドラムをバックに、まさに「血を吐く」ようにジョンは叫びます。

 最後の「mama don’t go(ママ行かないで!)」と「daddy come home(パパ帰ってきて!)」のリフレインは、もう、感動を通り越して、戦慄してしまいます。

 実際、アメリカでこの歌は「狂気じみている」という理由で放送禁止にもなりました(歌詞の一部が近親相姦を想起させるというのが原因でしたが、全く的外れな捉え方です)

 ビートルズファン達は、カリスマであり、まぎれもないスーパースターのジョン・レノンが、ここまでボロボロに傷つきながら、自分をさらけ出したことにショックを受けました。

 その後の「小品」に区分けされるであろう楽曲達も、とにかくメッセージ性ということでは、強力なものが続きます、それは、自分とヨーコの孤独であったり、政治不信だったり、ポールとジョージを揶揄するものであったり、とにかく、ジョンは内にあるドロドロしたものを、どんどん吐き出していきます。

 LPではB面1曲目、『リメンバー(思い出すんだ)』は、絶対に聴いていた者が驚愕する、壮絶なエンディングを迎え、動揺が収まらない中、『ラブ(愛)』の、美しいピアノがフェード・インしてきます。

 「愛とは」と、ただひたすらに「愛の定義」をシンプルに歌う名バラードは、このアルバムで唯一オアシスのような1曲です。後半、「love is you(愛とは君)」「you and me(君と僕)」「love is knowing(愛とは知ること)」「we can be(僕らはそれができる)」という展開は、ジョンとヨーコの関係を、見事に浮かび上がらせます。

 

John Lennon & Yoko Ono 画像元: https://bit.ly/2FwDrP1

 

 ここで油断してはいけません(笑)

 アルバム中最もヘヴィな『ウェル・ウェル・ウェル』から、美しい小品『ルック・アット・ミー(僕を見て)』と続き、聴いた者、誰もがショックを受けた『ゴッド(神)』が歌われます。

 「God is concept by witch we measure our pain(神なんて僕らの苦痛を計る概念に過ぎない)」という、なかなか強烈な1行から始まる歌は、キリスト、聖書、ケネディ、エルビス他、あらゆるものを「I don’t believe in~(僕は信じない)」と、次々に否定していきます。

 そして最後に「I don’t believe in beatles(僕はビートルズを信じない)」と、ビートルズを否定し、「I just believe in me. Yoko and me(僕が信じるのは自分だけ、ヨーコと自分だけだ)」と歌われます。

 世界中のビートルズファンが「ポカーン」と口を開けて放心したことは言うまでもありません(笑)

 そして、それだけで、終わらせないのが、ジョン・レノン!

 『マザー』で幕開けたこのアルバムを『マイ・マミーズ・デッド(母の死)』という一曲を、最後に配置することで、見事に葬るわけです。

 ヨーコとの再婚、ビートルズの解散とソロデビュー、新たな道を歩み始めたジョンは、過去との決別宣言の本アルバムそのものを、宣言の完了とともに、過去に葬りました。

 

John Lennon 画像元: https://bit.ly/2xi8sl7

 

 そう、このアルバムで、過去を断ち切ったからこその、セカンドソロ、『イマジン』なんです。

 ロック史上ここまで「言葉」が刺さるアルバムはありません。なのに言葉数も異常に少ないんです。訳詞カード無しで、日本人が聴いても、ほぼ、どんな歌かはわかるはずです。

 それに加えて、音数の少なさも尋常じゃありません。もう、バンドいらないんじゃないか?、ってレベル(笑)音を詰め込みたがる、フィル・スペクターのプロデュース(音楽紹介「8」参照)だなんて信じられないくらいです。やればできる子じゃん、フィル(笑)

 追伸:このアルバムジャケットと、一瞬全く同じに見える(実は木陰のジョンとヨーコの位置が変わっている)ヨーコの『ヨーコの心』というアルバムがありますが、ご想像の通り(笑)最初から最後まで、ヨーコが叫び続けているシロモノでして、万人にはおすすめ致しません。マニア向け!

                                                              ケイズ管理株式会社 西内恵介

 

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