こんにちは、西内恵介です。「隠れた名盤」を紹介するという、本コラムの主旨から少々逸脱しますが、今回は、デヴィッド・ボウイの最新作にして遺作となった『★(ブラックスター)』を紹介させていただきます。好き嫌いを超えて、表現者としての凄まじさを、突きつけられるアルバムでした。

 

 

 

★(ブラックスター)
 デヴィッド・ボウイ

★(BLACKSTAR)
DAVID BOWIE 2016年

 

 

メンバー

デヴィッド・ボウイ(vocal)
ダニー・マッキャスリン(sax・flute)
ジェイソン・リンドナー(keyboard・piano)
ティム・ルフェーブル(bass)
マーク・ジュリアナ(drums)
ベン・モンダー(guitar)
ジェームス・マーフィー(percussion)

 

プロデュース 

トニー・ヴィスコンティ
デヴィッド・ボウイ

 

収録曲

1 ★(ブラックスター)(BLACK STAR)
2 ティズ・ア・ピティ・シー・ワズ・ア・ホア(TIS A PITY SHE WAS A WHORE)
3 ラザルス(LAZARUS)
4 スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)(SUE(OR IN A SEASON OF CRIME))
5 ガール・ラブズ・ミー(GIRL LOVES ME)
6 ダラー・デイズ(DOLLAR DAYS)
7 アイ・キャント・ギブ・エブリシング・アウェイ(I CAN’T GIVE EVERYTHING AWAY)

 

 

妻「パパってさ、見た目ロックっぽく無いじゃない?」

俺「ロックっぽい?」

妻「リーゼントとか、長髪とかさ、あるじゃん?そういうの」

俺「まぁね(と言いつつ、心の中で「おまえと結婚したのがロックな人生だよ」と思う)」

妻「あっ!!今、私と結婚したのがロックだとか思ったでしょ!!」

俺「えっ!えっ!い、いや?まさか?そんな?ないない!」

妻「.....ふーん」

俺「ホントホント、そんなこと思ったこと..無い..よ...ねぇ?」

妻「こらこら!ピシッと否定しろ!ピシッと!」

俺「やっぱ、見た目もロックっぽく行くかな?」

妻「痩せないとさぁ....その体型で長髪じゃプロレスラーにしか見えないって」

俺「リーゼントは?いいんじゃない?リーゼント!」

妻「うーん、多分、遠目には、マゲ結った関取に見えるよ」

俺「.....」

 

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画像元:http://goo.gl/80CbGh

 

クラシックには、作曲者が自分の『死』を意識して書いたであろう作品が、いくつか存在します。

結核がまだ不治の病だったその時代、例えばショパン(享年39歳)は、結核の病床で『子犬のワルツ』を、シューベルト(享年31歳)は、『死と乙女』を、モーツァルト(享年35歳)は、そのもの『レクイエム(葬送曲)』を、と言った具合です。

 

 これらの曲は、『子犬のワルツ』のように、生きてきた時代の良き想い出を、美しく穏やかに表現する場合と、『死と乙女』のように、迫り来る死への恐怖、悲しみを、暗く重く表現する場合に二分できます。作り手の死生観によって、見事に正反対に表現されるわけです。

 

 自分の死と向き合った表現なんて、僕もこの『二つ』だと思っていました。「今まで生きてて楽しかった。ありがとう」か、「まだ死にたくねーよ。バカヤロー」か、です。

 

 まさか、自分が死んだ後に『冥界』から歌ってやろうなんて、普通思い付きます?

 

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Blackstar MVより  画像元:https://goo.gl/83rSA8

 
 2016年1月8日、自身の69歳の誕生日に、本作『★(ブラックスター)』はリリースされ、その2日後にデヴィッド・ボウイは急逝しました。18ヶ月にわたる癌との闘病の末です。

 

 リリース一年前のレコーディング開始時に、プロデューサーであり、盟友のトニー・ヴィスコンティは、ボウイに自分が末期癌であることを告白されたそうです。トニーは「告白を聞いている途中で、泣き出してしまった」と振り返っています。

 

 ボウイの病状は、参加ミュージシャン達には、明かされませんでしたが、化学療法の結果、髪も眉も全て抜け落ちた状態を隠すことはできません。それでも、ボウイは、見事なパフォーマンスを披露したようで、ベースのティム・ルフェーブルは「癌と闘病中であることはわかったが、そんなに状態が悪いようには見えなかった」と、その死に驚きを隠せないといったコメントをしています。

 

 こうして完成されたアルバムは、過去のどの時代ともかぶらない、全く新たな領域のものでした。

 

 美しく、暗く、まさに『幽玄』という境地のタイトルナンバーで幕を開け、「私は全てを与えることはできない」と繰り返し歌いながらも、曲調はエネルギーに満ち溢れた最終曲で幕を閉じる、濃密な41分間。

 

90年代以降の他の作品同様、本作でもブレイクビーツ(生ドラム音をサンプリングして、プログラミングでリズムを再構築する手法)が楽曲の軸となっています。が、まず、その複雑なリズムを、マーク・ジュリアナ(drums)が生で再現してしまうなど、現代ニューヨークジャズシーンの、先鋭ミュージシャン達が、本作の楽曲に、見事な肉体的グルーブを宿しました。

 

 そしてトニー・ヴィスコンティの、これ以上無いだろう繊細なるプロデュースは、冒険作だが、決して前衛作ではないという、絶妙な、さじ加減を保っています。

 

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 ジャケットは、白地にただ『★』だけ。下の★を分解した記号は『BOWIE』と置き換えるそうです。言われれば何となくは読めるかな(笑)。インナーは、黒地に光沢黒文字(!)で歌詞、クレジットが記載されており、見事に全面真っ黒になっています。

 

 ボウイにとって、また、ボウイを聴いてきた人達にとって、『星(スター)』の言葉やイメージは、特別なものです。『ジギースターダスト』はもとより、『スペース・オディティ』、映画『地球に落ちてきた男』など、ボウイは『星』や『宇宙』を、初期の重要なコンセプトの一つとしていました。

 

 その『星』が黒く塗りつぶされた。つまり、終わりなんです。

 

 遺書みたいなもんです。最後の一枚。

 

 だと思ったんです。最初は。僕も。

 

 あれっ?

 

 このアルバム、繰り返し聴いていると、奇妙な錯覚に陥ります。「あれっ?ボウイって、今、目の前で、自分に向かって、歌ってくれているんじゃないか?」

 

 目の前と言っても、大きな隔たりはあります。こちらは現世、彼は冥界にいるのですから。けど、冥界って、じつは遠くにあるもんでも無いんですね。割と自分のそばにある。そう、ボウイの歌声が聞こえるくらいにしか、離れていない。

 

 リスナーは、何だボウイは居場所を変えただけなんだ、と気が付くわけです。そして肉体を失ったボウイは、物理的な距離を無くし、リスナーの目の前に存在できるのです。そのためのドラえもんの道具みたいなもんが、この『★(ブラックスター)』だったんです。

 

 現世に最期に残した一枚じゃなく、冥界のボウイの歌を聴く通信機。そう考えると詞の意味、曲の持つ力が、俄然輝きを増すんです。

 

 ボウイは、このアルバムの『次作』を考えていました。冥界から歌われるアルバムの次には、冥界からのニューリリースです。トニー・ヴィスコンティは、5曲の未発表のデモが残されていることを公言しており、ボウイは死の一週間前に、早くスタジオに入りたいと語ったそうです。

 

 そしてその5曲は、深遠な本作とは打って変わって、「こっちでも楽しくやってるよ!イェーイ!」的な(笑)サービス精神満載の、いかした曲達に決まってます。僕の勝手な想像ですが。でも本作を聴けば聴くほど、そう思えて仕方ありません。

 

 将来、その未発表デモ5曲を、世に出すことがあれば、本アルバムのデラックスエディションなどとして、ボーナストラック扱いなどでは無く、『新譜』として堂々とリリースして欲しいと、切に願います。それで本当に最後にしましょう。ソニーミュージック関係諸氏の尽力に期待します。

 

 最後に、孤高のロックスター、デヴィッド・ボウイのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。

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Devid Bowie 画像元:http://goo.gl/3IDXdi

  ケイズ管理(株)西内恵介