一口に『映画の中の社長』と申しましても、これはもう実にたくさんの種類がございます。

『世界の富の半分を持つ男』ことジョン・ヒューズをはじめとした実在した社長から、果ては未来の宇宙でのエイリアン騒ぎを陰で操る大企業『ウェイランド湯谷』の社長まで。ともすれば収集のつかないくらいに実に多彩な顔ぶれですが、この社長さんたち、実は大きく真っ2つに分類することができます。

それは『地に足のついた社長』と『現実味のない社長』の2つ。

いえいえ。未来世界の社長だから現実味がない、というわけではございません。

前者は、例えば映画の中で『経営者』としての顔が描かれているなど、きちんと『社長』としての姿が見て取れる面々を指します。

対して後者は、例えばただひたすら世界征服の野望を抱いているだけなど、社長としての姿は一切見えてこない、現実味のない面々のことです。

しかし、中には例外もございます。

今回ご紹介する映画の社長は、この2つの分類を大きくまたいでその姿を変えていく、なんとも謎めいた人物なのです。
 
 
ディアボロス 悪魔の扉』。1998年のアメリカ映画です。

 

 

ディアボロス/悪魔の扉 [Blu-ray]

1997年 アメリカ映画
テイラー・ハックフォード監督

 


 裁判で負け知らずの辣腕弁護士・ケヴィンは、あるときニューヨークで法律事務所を経営する弁護士・ミルトンに見出され、彼の事務所に勤めることとなる。
 

 しかし、直後に起こった事件のために不動産王の弁護を担当するうち、ケヴィンの周囲で次々と奇妙なことが起こり始める。

 夜毎の悪夢、妻の異常。やがて自身の弁護士としてのキャリアと、真実との板挟みにあったケヴィンの前に、想像を絶する事態が立ち現れる…。

 

 

この映画に出てくる社長は、先ほどもお話いたしましたように、『地に足のついた社長』から『現実味のない社長』へと変貌していくとんでもない人物です。まさに社長映画界一の掟破りといえましょう。

と、こう書きますと、この映画、実はとってもでたらめな筋運びなのか? とも感じられてしまいますが、これを上手い具合に破綻なく纏め上げているのが、様々なレベルでしっかりと組み上げられた『説得力』の骨組みなのです。

今回は、変貌する社長を破綻から救う、本映画のもつ様々な『説得力』を見てまいりましょう。

 

 

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The Devil’s Advocate 画像元:https://goo.gl/zuP1Is

1つ目の『説得力』。それは、舞台となる世界の『説得力』です。

この物語、実は中盤に、とんでもない世界観の変容がもたらされます。具体的に申しますと、現実社会から、そこに暗躍する悪魔達の物語へとシフトするのです。

法廷劇からオカルトへ。この無茶な飛躍を繋ぎとめるのが、『法廷』という物語の舞台です。

裁判での勝ち負けがキャリアに直接結びつく世界で、主人公の弁護士が『真実』と『実績』の間で揺れ動く。虚虚実実の駆け引きによって人々の未来が決まってしまう弁護士達の判断は、正にそのまま悪魔による運命のいたずらに通じるところがございます。

それゆえに、無敗を誇る弁護士、ケヴィンに本物の悪魔がささやくというびっくりするような展開にも奇妙な説得力がある、というわけなのですね。

 

 

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The Devil’s Advocate 画像元:https://goo.gl/zuP1Is

 
2つ目の『説得力』。それは、社長を演じる役者の『説得力』です。

謎めいた大物弁護士であり法律事務所の社長・ミルトンを演じるのはアル・パチーノ。お馴染みの名優でございますね。

錚々たる実績と幅広い人脈とを持ち、冷酷ともいえる割り切り方で弁護を『仕事』として切り盛りしていくその姿は、威圧感がありながらも一方でとてつもなく頼りがいのある安心感を抱かせます。怖くて頼りになる社長像です。

これを、アル・パチーノ一流の、重厚かつ大仰な演技で表現して見せるわけです。

実はこの、彼の持ち味であるどこか舞台劇を思わせる大芝居が、上手い具合に本映画の破綻を防いでいるのです。

後半、彼が悪魔としての正体を明かし、引き抜いた弁護士を言葉巧みに誘惑するわけですが、この辺りから演技もますますヒートアップ。舞台劇感もいや増し、『ああ。これだけアル・パチーノ節全開なら、このキャラクターが実は悪魔だろうが、何となく納得できるよね』という気持ちにされるのです。

 

そして、彼の事務所に引き抜かれる辣腕弁護士役はキアヌ・リーヴス。強い意志を感じさせるのにどこか神経質で壊れてしまいそうな存在感は、この物語にはうってつけの『振り回され役』といえましょう。

役者さんそれぞれの『お約束的演技』が物語に妙な説得力を持たせている。意図したものなのかは分かりませんが、この奇妙なはまり具合は一見の価値あり、です。

 

 

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The Devil’s Advocate 画像元: https://goo.gl/6rhBQQ

  
 辣腕弁護士が悪魔社長の誘惑を受けた末に下した決断とは。単純なひねり技ではくくれないその結末は、どうか本編をご覧になってお確かめください。社長、最後の最後まで大活躍です。

 

そうそう。本作は前述のように『悪魔』にまつわる物語ではありますが、(例えば『ダヴィンチ・コード』や『罪喰い』のような)キリスト教の倫理観に深く根ざすような概念は出てきませんので、多神教慣れした私たちニッポンジンにもすんなり理解できる内容となっております。

 

やり手社長の、あまりにも意外な正体。

『ディアボロス 悪魔の扉』をご紹介いたしました。

 

(2017.1. 文:黒田 拓)

 

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