ウェブマガジン『タシナム』編集部のある北海道は,今年,半世紀振りとも言われる未曾有の大寒波に襲われております。
年の初めをどえらい寒波で凍えながらはじめるのは何となく面白くない。そう思った当方,心温まる社長映画を見つけてまいりました。
『天国から来たチャンピオン』。1978年のアメリカ映画です。
『 天国から来たチャンピオン 』
1978年 アメリカ映画
ウォーレン・ベイティ 監督
バック・ヘンリー 監督
アメリカンフットボールのクォーターバック・ジョーは,念願のスーパーボウルへの出場を約束されるが,その直後,自動車事故によって死んでしまう。
しかし死後の世界に『死亡という運命は手違いであった』ことを知らされたジョーは,天使の一人に再び現世に戻るための肉体探しを要求する。
スーパーボウルに出場するという条件のため,なかなか乗り移るための体が見つからない中,結局ジョーはとある大企業の社長の肉体を借りることになる。
ところが,社長が擁する企業は大きな問題を抱えていた。その上,社長自身の身にも大きな危機が迫っていたのだった…。
この映画,確かに名作といえる心温まる一作です。
しかしよく見てみますと,本作には実に様々な『抜け目なさ』が見え隠れていることに気づきます。そしてこれらの『抜け目なさ』こそが,この映画を観るものをして唸らせるヒット作にした,と申せましょう。
今回は,これらの抜け目なさをご紹介しつつ,本作の魅力を探ってまいりましょう。
まず1つ目は,何といっても監督の『抜け目なさ』。
本作の監督・脚本・主演をつとめるのはウォーレン・ベィティ。いわずと知れた名優です。
役者としていち早くスターダムに上り詰めただけでなく,監督としてもヒットメーカーとしての名をほしいままにした上,例えばアカデミー監督賞を受賞した『レッズ』で見せた,セミキュメンタリー的な演出など,並ならぬ発想を持った才能の持ち主でもあります。
で,このお方の何が抜け目ないのかと申しますと,その恋愛模様です。競演した女優との浮名は数知れず,しかもそのお相手がまた桁違い。カトリーヌ・ドヌーヴからマドンナまで,錚々たる皆様でございます。
体当たりの演技を話題作で見せつつも,ちゃっかり共演者との色恋沙汰も欠かさない。
抜け目ないお方です。
そんな抜け目ない社長が監督した本作は,軽妙なコメディタッチに仕上がっております。人の死を扱っている上,殺人も話の軸に絡んでくる展開ながら,一種ドライな場面の切り替えがそれを感じさせません。音楽の使い方も効果的です。軽めの作品でも手を抜かない。その抜け目なさを存分に味わうことができます。
特に冒頭の,主人公・ジョーが霊界に行くまでの無駄の無い展開は,一見の価値がございます。
そして2つ目には,その演出の『抜け目なさ』。
本作は,死者が現世に戻ってくるというファンタジー映画です。天使や幽霊,そして霊界までが登場する筋運びですが,実は特殊効果の類はほぼ使われておりません。
天使も幽霊も,普通に現世に現れ,どたどたとそこらへんを歩き回ったりいたします。その上で,主人公が大企業の社長に乗り移ったり,別の体に鞍替えしたりと,幽霊らしいことをしてのけるわけです。
こう記しますと,とっても分かりにくい話なんじゃないの? とお考えの向きもあろうかと思われますが,さにあらず。シチュエーション設定の見事さと演技,実に分かりやすく話が進んでまいります。
観客側の心配,例えば『乗り移った後,主人公の姿はどうなるの?』というような辺りも,物語の展開にあわせてごく自然に解決していくのです。なんとも抜け目ありません。
例えば物語の後半,社長に乗り移ったあとのジョーが,訳あって馴染みの友人に自分の正体を明かすことになるのですが,これもまた,一目見ただけで誰もが納得するようなやり方であっという間に見事に片付けてしまいます。
こういった仕掛けの抜け目なさに思わず『こう来たか!』と天を仰ぐ。これもまた,本作の楽しみ方の一つといえましょう。
そして3つ目。それは,本作に登場する社長の『抜け目なさ』です。
主人公・ジョーが乗り移るファーンズワース社長は,とあるきっかけにより社の方針を大きく変換させることになります。このやり方がなんとも痛快です。
重要会議の行われる一室に記者団を招きいれてしまう。自分の得意分野のアメフトチーム論を使ってチームワークを訴える。裏で猛勉強して現状の把握に努めるという姿を見せる。
主人公は基本的に善良なアメリカ人像そのものなのですが,その天然ぶりが,むしろ抜け目なく感じられます。
また,この方向転換の内容が,現代の企業方針を先取りしているような内容なのが面白いところです。
実は,原作の戯曲を元に先んじて1946年に公開された映画『幽霊ニューヨークを歩く』では,主人公はプロボクサーだったそうです。しかし,リメイクとなる本作では紆余曲折あってやむなくクォーターバックになったとの事。
クォーターバックといえば,アメリカンフットボールにおいては攻撃の要であると同時に,時には作戦を決めることにもなるリーダー的ポジション。その役柄を上手く生かし,社長としてのリーダーシップを発揮し,社を纏め上げていく展開にしていくあたりがまた,抜け目ありませんね。
本映画の制作当時,アメリカが必要としていたリーダーシップ像が反映された上でのリメイクだったのかも知れませんね。
と,ここまでずっと本作の『抜け目なさ』をとりあげてまいりましたが,本作の大きな軸となっているのが恋愛物語。他者に乗り移り続けた幽霊である主人公が,最後にどんな恋を勝ち取るのか。それはぜひ,実際にご覧になってお確かめください。
ここでもやっぱり,きちんと抜け目ありません。
天然社長の抜け目ない恋物語。
『天国から来たチャンピオン』をご紹介いたしました。
(2017.1. 文:黒田 拓)