本稿が掲載されますのは、ウェブマガジン『タシナム』の2017年1月号。
 つまり新年号でございます。

 となれば、新しい年を迎えるおめでたいムードにふさわしい映画をご紹介したい。

 当世はあまり大きくフィーチャーされなくなりましたが、『お正月映画』なんていう言葉もございます。年の始めは楽しげな映画で始めたい。普段からねじくれた映画ばかり観ている当方も、心からそう思います。

 しかし『お正月映画』と申しますと、どうしても冬休みのお子様と一緒に観に行ける家族向けのもの、というイメージが付きまといますね。酸いも甘いも噛み分けた大人のためのお正月映画、ないものでしょうか。

 あるんです。飛びっきりの『大人向け』。それも、むしろ『子供に見せてはいけない』くらいのレベルのやつが。

『プロデューサーズ』。2005年のアメリカ映画です。

 

 

プロデューサーズ

2005年 アメリカ映画
メル・ブルックス 監督

 

 

 かつて名声をほしいままにしていたものの、今や落ちぶれたブロードウェイのプロデューサー・マックス。ある時彼は、会計士・レオの調査により思いがけない事実を知る。

『ミュージカルは、売れないほうが儲かる!』

 その発見を元に、マックスは大コケするミュージカルを制作してその資金を持ち逃げする、という危い計画を思いつく。

 かくしてマックスは、実はプロデューサーになるのが夢だったレオと手を組んで『絶対にコケるミュージカル』の制作に奔走することとなるが…。

 

 

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The Producers 画像元:https://goo.gl/mfiMTa


 実は本作、少々複雑な経緯を持っています。もともとは、1968年に制作された映画。それが2001年にブロードウェイでミュージカル化され、それを受けて2005年、同じタイトルでミュージカル映画としてリメイクされました。今回は2005年のミュージカル映画の方をご紹介いたします。

 

 さて。映画や演劇は、様々な役割の人々が集まって創られるものですが、そういった人々を束ねて作品を完成にまで持っていく仕事がプロデューサーです。いわば、制作現場における社長といえましょう。

 資金をやりくりしたり、有能な人材を引っ張ってきたり。『プロデューサー』と聞くとなにやら華々しい響きがありますが、実は最も地味な縁の下の力持ちとしての役割もあわせて担っている辺りも、社長のお仕事とよく似ておりますね。

 華々しく見えるけれども、実はとっても地道。

 そういったわけですから、『プロデューサーや社長の奮闘記』というようなテーマになりますと、どうしてもじっくり鑑賞するタイプの伝記系映画が多くなってしまいます。

 しかしそこはコメディ映画の巨匠、メル・ブルックス。たった一つの仕掛けを用意することで、そのプロセスを実に面白く見せてくれます。

 それが、『売れないミュージカルを創る』という捻くれた設定です。

 言ってみれば『絶対に売れない商品を販売するための会社作り』というわけでございますね。

 

 

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The Producers 画像元:https://goo.gl/ntiwK5

 

 本作は、実は結構丹念に『組織作りと商品(作品)の完成』を追っていくつくりになっています。

 しかし、良からぬたくらみを抱いた2人のプロデューサーがやることですから、そのプロセスは全て本当はやっていけないことばかり。

 これがかなり痛快です。例えるならば、子供のころ、親に『してはいけない』と言われたことを全てやりつくしていくような、そんな感覚です。

 

 元大物プロデューサーを演じるネイアン・レイン、そして神経質な会計士役のマシュー・ブロデリックの両者が見せる表情は、舞台演劇を思わせるやや大げさな演技とあいまって、悪戯好きの悪ガキそのもの。 

 子供に見せちゃいけませんね。

 

 

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The Producers 画像元: https://goo.gl/mj7Xhm

 

 そしてこの痛快さを裏付けるのが、本作の大きな肝でもある『完全に大人向けの笑いの要素』です。全編に亘って、それはもう、黒い笑いに満ち溢れているのです。

 例えば、プロデューサーたちは『わざと』ナチス信奉家の脚本家を選びますし、『わざと』悪趣味なゲイの演出家を選びます。

 そしてその結果出来上がったミュージカルの題名は『ヒトラーの春』。言うまでもなくその内容は、歌詞から衣装、そして踊りまで全てが真っ黒。

 テンポ重視で笑わせていくのではない、シチュエーションでネタを畳み掛けてくるスタイルはまさに監督メル・ブルックスの面目躍如。重いボディブローを連続して叩き込まれるような笑いです。

 そもそも、子供には分からない味わいですね。

 

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The Producers 画像元: https://goo.gl/jJzJji

 

 一癖も二癖もあるキャラクター達を演じるのは、ウィル・フェレルやユマ・サーマンなどの豪華キャスト。そんな中でも特に光るのが、劇中劇『ヒトラーの春』でヒトラーを演じる演出家役のゲイリー・ビーチと、趣味の悪いヒトラー賛美の歌を朗々と吹き替えなしで歌い上げるイギリスの美声俳優、ジョン・バロウマン。

 とくに後者のバロウマンは、私生活でもゲイをカミングアウトしており、その辺りも踏まえてネタに変え、出演している懐の深さもまた見所です。

 

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The Producers 画像元:https://goo.gl/mfiMTa

 

 どぎついユーモアに満ち満ちた、逆『社長一代記』ともいえる本作。

 プロデューサーがつくり上げた『やっちゃいけないことだけを採用して出来上がった制作体制』が最後に迎える結末については記すのを控えさえていただきますが、一筋縄ではいかないながらも実に『お正月映画』らしい大盤振る舞いとなっております。

 ぜひ、本編をご覧になってお確かめください。

 

 元辣腕プロデューサーの、裏『社長一代記』。

『プロデューサーズ』をご紹介いたしました。

 

(2015.11. 文:黒田 拓)