これは決して映画の中だけの話ではないかとは思いますが、社長というお立場にあっては、会社は我が半身も同然。切っても切り離せない立場と申せましょう。

映画の中の社長もまた然り。社内の権力争いに立ち向かったり、ユニークな社員に目をかけて世話を焼いたり、あるいは企業ぐるみの陰謀の首謀者だったり。活躍の舞台は自らの城たる社内であることがとても多い。

ですからキャッチコピーなんかに『社長の戦い』と冠せば、それは大抵、波乱に満ちたサクセスストーリーであったり、新製品開発秘話であったりを指すのが通例です。

しかし今回ご紹介する映画の『社長の戦い』、少々毛色が違います。何せ本当に戦っちゃいますから。

『ザ・ワイルド』。1997年のアメリカ映画です。

 

ザ・ワイルド
1997年アメリカ映画
リー・タマホリ監督

 

実業家・チャールズは、ファッションモデルである若妻とその専属カメラマン・ボブらと共に写真撮影のためアラスカを訪れる。

新たなモデルを求めてさらに奥地へと足を運ぶチャールズとボブらだったが、事故によって彼らを乗せた飛行機は川に墜落。

彼らは何とかして助かる方法を探り始めるが、その道のりには恐るべき困難が立ちはだかっていた。

そしてさらに、チャールズの中にはボブに対するとある疑念が渦巻いていたのだった…。

 

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The Edge  画像元:https://goo.gl/jYJr8c

 

社長、アラスカの山に放り出される。

大富豪が直面する極限状態のサバイバル、という筋運びですと、たいていは途中でわがままを言って状況を悪化させたり、あるいは早いうちに命を落としちゃったりする役どころが多いのですが、本作ではそんなことはありません。逆境を向こうに回して真っ向勝負します。

その上、この映画の社長は3つもの相手といっぺんに戦います。そこいらの冒険活劇の主人公たちもかくやたるハードな状況。その戦いぶりを見て参ることにいたしましょう。

 

まず1つ目の相手、それは『自然』です。

すったもんだあってアラスカの奥地に放り出された一行は、生還するべく元来た道を陸路で戻ろうとします。ここで大活躍するのが、意外にも社長。

チャールズ社長は、皆が談笑する中、一人本を紐解いて読みふけるほどの活字中毒。しょっぱなからその博識振りを披露して見せます。『知識を溜め込んでいても役に立つとは限らない』と自嘲気味に嘯いて見せるものの、サバイバルが始まった後の活躍ぶりときたら、ちょっとでき過ぎで苦笑してしまうほどの素晴らしさです。

正確な方角を知る。罠を作る。パニックに陥る同行者をいさめる。

溜め込んだ知識、総動員じゃないか。

人一人いない大自然の中でも成熟した大人の姿勢を崩さないその姿は、かなり新鮮です。

 

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The Edge  画像元:https://goo.gl/Js2XBq

 

そして2つめの相手は、『熊』。

当方のつたない映画鑑賞経験にさらしても、『社長VS熊』という映画はそうそう無い気がいたします。…と、こう書きますと、なんだかカルト映画じみたチープで奇妙な光景を思い浮かべるかもしれませんが、さにあらず。本作の熊の描き方は本当に巧みで恐ろしいのです。

後半クライマックスの熊との直接対決のくだりはもちろんですが、特に見事なのが最初の邂逅。まるで記録映画のように、あえて望遠ショットで熊が近づいてくる様子を捉え、あとは鳴き声と、熊が木を踏むパキパキという音だけで迫り来る様を観せる。

この緊張感は,ひとえに相手の熊が本物であることにもよるのでしょう。本編終了後のスタッフロールには、熊とそのトレーナーの名前もしっかりとクレジットされているのですが、このことがとりもなおさず本作が熊と言う『名優』なしには成立しなかったことを表しております。

 

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The Edge  画像元:https://goo.gl/20AYkj


その『名優』に知恵で相対する社長は、切れの有るアクションではなく、老いた体に鞭を打つような説得力ある姿。寧ろ下手なアクションものよりもずっと男らしく見えます。

 

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Anthony Hopkins  画像元:https://goo.gl/1of0V8

 

そんな社長を演じますのは、ウェールズ生まれのアンソニー・ポプキンス。これまた言わずと知れた名優でございますね。『羊たちの沈黙』での怪演以来、この役者さんが出ると絶対にただではすまない雰囲気が漂いますが、本作では如何に?

 

 

 

 

 

 

そして3つ目の戦いの相手が、『カメラマンのボブ』。

チャールズは、映画の冒頭部分で、自分の妻と彼との間の関係を疑うに至ります。

その疑問を相手に正面からぶつけるチャールズ社長。

それを『金持ちゆえの疑心暗鬼だ』と一笑に付すボブ。

しかしここから先がこの映画のミソでして、先ほど触れましたようにチャールズ社長には本好きの変わり者という設定があります。それに合わせるようにアンソニー・ホプキンスは、物静かとも、人間嫌いがこじれた変わり者とも取れる、抑えた役作りで演じているのです。

つまり、本性が中々わからない。

チャールズはボブ言うところの『金持ち特有の変わり者』か、それとも冷静沈着な好人物なのか。これが観ている側には、なかなか分からないようにできているのです。

このあたりが、本作に一風変わった緊迫感を与えています。

 

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The Edge  画像元:https://goo.gl/JC9WU4

 

自然、熊、不倫。3つの相手と戦うチャールズ社長が最後に行き着く結末。それは成熟した大人のサバイバルならではのものでした。ぜひ、本編でお確かめください。

 

アラスカの大自然を舞台に、社長が熊相手にサバイバル。

『ザ・ワイルド』をご紹介いたしました。

 

(2015.9. 文:黒田 拓)