暦の上ではもう秋、という時期ではございますが、近年はここからが暑さ本番、といわんばかりに残暑がのさばり続けるのが、もはやお盆明けのお天気の定番といえるようになってしまいました。

 まだまだ暑いのだから、まだまだ季節はずれではありませんよね?

 と、予防線をはりつつ、今回は暑い時期にはもってこいの背筋の寒くなるような恐ろしい映画をご紹介いたします。主人公は勿論社長。社長の出る恐怖映画でございます。

 しかしこの映画、少々不遇なところがありまして…。そのあたりについてはまず、あらすじをご紹介させていただいてからご説明することにいたしましょう。

 『ゲーム』。1997年のアメリカ映画です。
 

ゲーム 』 
1998年アメリカ映画
デヴィッド・フィンチャー監督

 

 妻と離婚し孤独な日々を送る実業家・ニコラスは、誕生日に奔放な弟から謎の『招待状』を受け取る。それは謎の企業・CRS社による、契約したものを『ゲーム』へと誘うサービスのチケットなのだという。

 契約を結んだニコラスは、その日を境に現実とも仕組まれたものとも知れない非現実的な経験を繰り返すこととなる。果たしてゲームの目的は。そしてニコラスはそれにどう立ち向かうのか…。

 

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『The Game』画像元:goo.gl/L3zpKg

 

 困ったことに、本作は観客だれもが『怖がる』ことができるかというと、そうでもない。評価が真っ二つに分かれてしまう作品です。『怖い』という方もいらっしゃれば『全然肩透かしだった』とおっしゃる方もいらっしゃる。

 こういった状況を鑑みるに、本作の魅力に触れるためには、観るにあたっての『道しるべ』があったほうがよいのではないか。まずはこのあたりからお話させていただきます。
 
  

 本作で『肩透かしをくらった』という方の感想をお聞きしますと、筆者が知る限りは『主人公が謎を解いたりするサスペンス要素が無かった』という意見が大半でございます。

 むべなるかな。しかし本作は『ゲームに参加させられた主人公が次々と起こる理不尽な状況を切り抜けていく』という筋運びですので、いわゆるサスペンスとは少々毛色が異なります。

 恐らく、本映画の監督であるデビット・フィンチャ―は、聖書をモチーフにした猟奇殺人をテーマとする傑作サスペンス映画『セブン』で名を馳せたという経緯があったため、そういった『意外性』や『謎解き』を求めて本作をご覧になった方が多かった、という経緯があったのかもしれません。

 映画にとっても観客にとっても不運な出会い、と言えましょうか。

 

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『The Game』画像元: goo.gl/zYtZW4

 

  そこで、ここにちょっとした道しるべを立ててみることにいたしましょう。

 それは、本作を『推理サスペンスとして観ない』というやり方です。

つまり『敵と主人公の頭脳戦』という見方ではなく、『主人公が目の前の危機をどう切り抜けるのか』という、一種冒険活劇を見るような視点。

 こういった方向から本作をご覧になりますと、本作はとっても恐ろしいものとなって目の前にたち現れてきます。

 不自然なことが次々に起こるため、それらのどこまでが仕組まれたものなのか、仕組まれているものの真の意図とは何なのがどんどん分からなくなっていく。この不安感は、本作ならではの怖さといえましょう。

 何せ『ゲーム』ですから、推理サスペンスのように観客にだけ伏線やヒントを見せる、といった手法は一切ありませんし、もちろん仕掛け人側の動きは一切見せてくれません。観客に与えられる手がかりは主人公に与えられるそれとほぼ一緒。

 つまり、観客は絶対に主人公を高みから見物できないのです。これは怖い。

 

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『The Game』画像元:goo.gl/D4L7FI


 

 また、資産家の社長が、ゴミ箱の中からアメリカ国境の向こうまで色々なところを這いずり回らされて『ゲーム』に巻き込まれていく様は、これまであまり見たことのない新鮮な構図でもあります。

 演じるのは不遜な役をやらせたらハリウッドで5本の指に入るだろう俳優マイケル・ダグラス。最初は冷笑家な社長がひどい目にあうのがちょっといい気味に見えるところもあるのですが、変なところで強がったり、ふと過去にまつわる弱みを見せたり、反撃に転じる雄々しさを見せたりと、これはもうちょっとした『社長アドベンチャー映画』ともいえるのではないかというくらいに様々な姿を味あわせくれます。

 こんなに動く社長も、スクリーンでは中々お目にかかれないかもしれません。
 

 そして本作には、実はもう一つの物語が隠されています。

 それは『社長の成長物語』。

 実は主人公が『ゲーム』の招待を受ける48歳という年齢は、同じく実業家だった父親が投身自殺をした年齢と同じである、という背景があります。父親と過ごした少年時代。父親が投身自殺した邸宅に今も一人で住む主人公。台詞での明確な説明はありませんが、差し挟まれる古びた過去のフィルムが、主人公が抱える心の内を描き出していきます。

 また、序盤では明確に見えてこない弟との関係も、後半のとある事件をきっかけに明らかになっていきます。

 この社長が抱える問題と『ゲーム』の進行。2つを重ねていくことで、『社長アドベンチャー』映画とは一味違う物語が見えてくる。これもまた本作の魅力の一つと言えましょう。

 

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『The Game』画像元:goo.gl/L3zpKg

 

 と、いったわけで、いくらでも深読み可能な映画作りがデビッド・フィンチャー監督の18番ではありますが、ここに『社長の心の変化を追いかけてみる』という、本作を観るためのもう一つの道しるべを立てる事にいたします。

  ゲームに参加した社長の出口の無い悪夢と、そこに隠された社長の成長物語。

『ゲーム』をご紹介いたしました。

 

 (2015.8. 文:黒田 拓)