先月,本コラムでは,スティーブマックイーン扮する社長が活躍する名作痛快サスペンス映画をご紹介いたしまして,これは『原題よりも邦題のほうが洒落ている』一作でございました。

 その映画の原題は主人公の名を冠した”The Thomas Crown affair”で,邦題を『華麗なる賭け』と申します。映画を最後まで見たときに初めてこの邦題の真の意味が分かるという,洒落たサスペンスにふさわしい仕掛けを含んだ,見事な翻案でした。

 

 しかし,全ての映画の邦題が素晴らしいかといえばさに非ず。中には『どうしてそんなタイトルにしちゃったの?』と問いただしたくなるようなものも多々あります。

 今回は,そんな『残念な邦題』の社長映画をご紹介いたします。

 邦題は残念な仕上がりがら,その内容は心をぐいぐい揺さぶられる佳品でございます。

『最強のふたり』。2011年のフランス映画です。

 

最強のふたり

2011年 フランス映画
監督:エリック・トレダノ
    オリヴィエ・ナカシュ

 

 

 趣味のパラグライダーの事故がもとで首から下が麻痺してしまった大富豪フィリップは,自身の介護員の面接に来た風変わりなアフリカ系移民・ドリスを採用する。

 仕事にやる気も無ければ介護の資格も経験もない。生きる世界の全く異なる2人は,介護するものとされるものという関係を超えた友情を築きあげていくが…

 

『最強のふたり』というタイトルからは思いも及ばないような心温まる物語です。

原題は『Intouchables』。慣れないフランス語辞典から拾ってみますと『触れることのできないもの』という意味のようです。…うーん。何故,『最強のふたり』になったのか。当方,ちょっと推し量りかねます。 どうひいき目に見てもこの邦題は『バディものの刑事大活躍アクション映画』向けだと思うのですが…。

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Intouchables (2011) 画像元:http://goo.gl/1PMcVW

 

 題名の件はひとまず措くことにいまして,本編のほうに目を向けてみましょう。

 まず,観ていて『ああ,ハリウッドご謹製じゃないんだなあ』としみじみと感じさせてくれますのは,もちろんフランス語であるということもあるのですが,その容赦ない描写。

 フィリップは首下麻痺の障がいを持っているのですが,彼を介護することとなったドリスはといえば,一言で申さば『あたらしいおもちゃを手に入れた子供』のように振舞います。感覚が麻痺していることを確かめようと足に熱湯をかけてみたり,ひげの形であれこれ遊んでみたり,麻痺について言うのがはばかられるような悪ふざけを口にしてみたり。

 それでいてこのドリスという人物がちっとも不快に感じられないのは,その行動や言動に見え隠れする『対等の立場で付き合いたい』という姿勢あってこそなのだ,と観ている内に気づかされます。

 どぎつい笑いの先に見えてくる屈託のない関係性。これがいわゆる『お涙頂戴』ではない形で心を揺さぶるのです。

 しかし何と言っても,物語や演出以前に,この独特の雰囲気は,ドリスを演じる黒人コメディアン,オマール・シーのキャラクターによるところが大きい気がいたします。

 言葉やしぐさの勢いだけでなく,間で笑わせるセンスと,何より白い歯を見せて笑う無邪気な表情。むしろもう,本編のヒロインと言ってよいのではないかと思うくらい魅力的なキャストです。

 

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Omar Sy 画像元:http://goo.gl/kM2NBK

 

 対して本作の『社長』はどんな居住まいでございましょうか。

 首下麻痺の大富豪フィリップ。秘書の前では笑わない偏屈振りですが,ドリスの容赦ない付き合い方にむしろ信頼を寄せ,様々な表情を見せるようになります。

 むき出しの感情,無邪気な笑い,そして夢見るような恋する表情。

 そう。この映画,社長と介護員,主役2人の表情がとても豊かで魅力的なのです。

 

 孤独な大富豪を演じますのは,フランソワ・クリュゼ。

 首下麻痺という役どころにもかかわらず,威厳や上品な立ち振る舞いを感じさせる演技力には唸らされます。この上品さが,ドリスとの対比を絶妙に際立たせるのですね。

 …なるほど。こうして観てまいりますと,主人公2人はまさにベストの組み合わせ,つまり『最強のふたり』といえなくもありませんね。

 さて再びフランソワ・クリュゼのお話に戻りますと,この役者さん,個人的にはあまり馴染みのない方だったのですが,しかしどこかで見たことがあるような気がいたします。

 調べてみましたところ,合点がいきました。1986年公開の,実話を基にしたジャズミュージシャンの映画『ラウンド・ミッドナイト』で,ミュージシャンに何くれとなく世話をするフランス人の若者を演じていた方だったのですね。こちらはフランスも舞台にはなっていたものの,台詞が英語だったので,イメージが結びつきませんでした。

 

『ラウンド・ミッドナイト』では繊細な芸術肌の青年を演じていた彼が,文学を愛する貫禄ある大富豪に。上品さは,この役者さんの持ち味なのかもしれません。

 …ちょっと脱線してしまいました。すみません。

 

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François Cluzet 画像元:http://goo.gl/sZ1Bq9

 
 このように2人の交流が軸となっている本作ですが,物語の結末に向けて,他のいくつかのエピソードも絡み合っていきます。そのうちの一つが,ドリスの家族の問題。彼が兄として支える家庭には,常に貧困と犯罪の影が差しており,正に『Intouchable』。つまり,触れてはならないものとなっています。この辺りの描写には,フランスの社会における移民のままならなさがくっきりと反映されており,地に足のついた説得力があります。

 こういった決して甘くはない背景を抱えた主人公たちの物語は,それでも,最後に見事な着地を見せてくれます。ぜひ,本編をご覧になってその結末を味わってみてください。

 

 偏屈社長の屈託のない笑顔に心揺さぶられるフランスの佳品。『Intouchables』いやいや『最強のふたり』をご紹介いたしました。

 

 (2015.3. 文:黒田 拓)