いつもよりも雪の少ない冬とはいえ、まだ春には少しだけ遠い。こんな季節にはちょっと寒さがこたえます。暖まるのにちょうどいい『熱さ』をもった映画が観たいなあ。しかも、社長が出るやつ。…毎度のことながら、さすがにそんな都合のいい映画はそうそう無いだろう,と思っておりましたら、思い出しました。ありましたよ! 映画史上5本の指に入る色男俳優が社長をつとめる,とびきり『熱い』映画でございますよ!

『華麗なる賭け』。1968年のアメリカ映画です。

 

華麗なる賭け

1968年 アメリカ映画
監督:ノーマン・ジュイソン

 

 実業家であり、あらゆる富を思いのままにする成功者である主人公トーマス・クラウンは、強盗に手を染める天才的な犯罪者でもあった。

 続発する盗難事件の首謀者が彼であることに目をつけた女性保険調査員ヴィッキーは、その尻尾を掴むべく彼に接近するのだった…。

 

 本作は、ロマンスの要素満載ではありますが、それ以前にサスペンスでもありますので、あらすじのご紹介はここまでとさせていただきます。

 さて、実は当方、本作の邦題は、歴史上5本の指に入るほど秀逸なものではないかと常々感じております。

 本作の原題は”The Thomas Crown affair”。そのまま訳しますと『トーマスクラウン事件』とでも申しましょうか。対して邦題は『華麗なる賭け』。これまたずいぶんとかけ離れておりますね。しかし、この『華麗なる賭け』という言葉こそが、何よりもこの映画の内容を深く捉えているのです。その意味は追々お話しするとしまして、まずはこの映画の持つ様々な『熱さ』をご紹介いたしますね。

 

 まずは何と言っても、主人公が仕掛ける犯罪の痛快さがあげられましょう。強盗を成功に導きつづける完璧な計算。警察側が実行犯をうまく突き崩して黒幕に迫ろうとするシーンでも、この天才、見事にかわして見せます。こういった裏のかきあい、つまりサスペンスの醍醐味の部分も、ラストのラストまで実に上手く作られております。この辺りが、一つ目の『熱さ』といえるでしょう。

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Thomas Crown [Terrence Steven McQueen ] 画像元:http://goo.gl/dnwSnJ

 
 そんな主人公トーマス・クラウンは,一言で言うと『全てを兼ね備えた超人』です。

 類まれな手腕を振るう成功した実業家、スポーツ万能でポロを始めグライダーやバギーといった多趣味を誇り、その上犯罪の天才で、これまで何件もの強盗事件を成功させてきた男。いやはやこう記しますと、もう何でもありな社長さんですね。

 本記事を記しております当方などは、こういう持てるものを全て持っているような人物は絶対に映画の中ではひどい目に合わされるはずだ、などと勘ぐってしまいます。しかもこれが主人公なんですから始末に負えません。

 しかし、このトーマス社長、開幕30分ほどでそんな反感を抱いているような観客ですらもぐぐっと感情移入させるだけの魅力を持っているんですね。

 それは、一言で言うと『矛盾の塊』の魔力、とでも言うのでしょうか。

 精力的にビジネスを進め、全てを手に入れようとまい進するトーマスは、ときおりどこか寂しそうな、疲れたような表情やしぐさを見せることがあります。対して、陰で犯罪を成功させたときの社長の無邪気なこと。その様子には、常に危うさの影が見え隠れします。

『ひょっとするとこの社長は、破滅を望んでいるんじゃないのか?』…華麗な2面性を楽しみながらも、観客はどこか緊張感を感じ続ける。この危うさが、トーマス社長の人物像に深みを与えているのかもしれません。

 名優スティーブ・マックイーンが演じ分ける矛盾した姿が重なり合い、実に魅力的です。

 こういった多面性を持った天才社長の生き様こそが、2番目の『熱さ』といえましょう。

 

 こんな危うい魅力を持つ容疑者の正体を暴く相手が女性保険調査員なんですから、当然話は単なるサスペンスで終わるわけはありません。本作3番目の『熱さ』ともたらすのが、ロマンスのほうでございますね。

 大胆に犯罪者としての正体に斬り込んでいくヴィッキーとトーマス社長の緊張感ある関係の変化には、洗練された会話も相まって引き込まれます。特に2人がチェスを指すシーンなどは、もはや映画史上屈指の傑作『ラブシーン』と言ってよいのではないでしょうか。

 ヴィッキーを演じるのはフェイ・ダナウエィ。本作前には『俺達に明日はない』で歴史に残る最期を演じた役者さんです。ストレートに彼の裏の姿を暴こうと切り込んでいく大胆さが良く似合いますね。

 

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『The Thomas Crown Affair』画像元:http://goo.gl/RehA3e

 

 さて、この映画、これまでお話したように、サスペンスからロマンスまで色々な『熱さ』を兼ね備えた傑作ではございますが、もうひとつ、頭のほうで述べた邦題の意味について考えながらご覧になりますと、また別の『熱さ』が見えてまいります。

 トーマス社長が手を染め続ける犯罪。ヴィッキーが彼の正体を暴くためにとる大胆な行動。様々な要素が、実は全て危険と隣り合わせの華麗な『賭け』であることが、本作を観て行くうちに明らかになっていく、というわけでございます。

 そしての本作ラスト、2人の想いと犯罪の成否とが交錯するクライマックスこそが、最も『華麗なる賭け』なのです。

 このラストこそが、本作一番の『熱さ』といえるかもしれません。ぜひ、実際のご覧になってお確かめください。

 

 ちなみに本作、1999年には色男ピアース・ブロスナン主演でリメイクされております。トーマス社長は絵画泥棒と盗みの矛先を変えての再登場。主演の甘いマスクと相まって、ちょっと『怪盗もの』要素の増した、甘さ激盛りの一作に仕上がっておりました。

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The-Thomas-Crown-Affairb 1999  画像元:http://goo.gl/DLnSKG

 

完璧なのに脆く危険な魅力の社長が主人公のロマンチックなサスペンス。『華麗なる賭け』をご紹介いたしました。

 

 

 (2015.2. 文:黒田 拓)