折角の新年でございますので,ここは一つ景気のいい社長映画をお届けしたいと存じます。これがまた,おあつらえ向きの社長がおりました。しかも,実在の人物です。

 今回は,そんな史上最も大盤振る舞いな社長にまつわる映画をご紹介いたします。
 

   

アビエイター

2005年 アメリカ映画
監督: マーティン・スコセッシ


 1920年代。途方も無い額の遺産を手にしたハワード・ヒューズは,自分の夢に向かって果敢に挑戦を始める。経験もコネクションも無く飛び込んだ映画界では破天荒な製作姿勢で戦争映画『地獄の天使』をヒットさせ,続いては恐れを知らない大胆さでアメリカの大手航空会社・トランスワールド航空を手に入れる。世界の半分の富を持つ男と称される彼だったが,彼の持つ脅迫症は次第に彼の心を蝕んでいく。

徐々に悪化していく精神状態の中,ついに彼は輸送機の開発に関わっての公金の不正使用の疑いを掛けられてしまう。果たして疑惑の行く末は…。

 

  本作は『資本主義の権化』とも称された大富豪,ハワード・ヒューズの半生を描いた伝記映画です。逸話・ゴシップ・経営姿勢。何もかもが途方も無い規模の彼ですが,この映画はその姿を丹念に描き出して見せます。

 途方も無く大きな相手を向こうに回し,驚くような規模の資産をつぎ込む。ここだけ見るとやんちゃなお坊ちゃまなのですが,驚くような専門知識を駆使してそれを成功させる。しかも自信満々。

 ハイリスク・ハイリターンここに極まれり,といった姿勢なのですが,このはらはら度合いがサクセスストーリーものの醍醐味でございます。ハワード社長は実在した人物な上にその規模が桁違いなので,味わいもひとしおです。

 ハワード社長を演じたのはレオナルド・ディカプリオ。『不敵』が良く似合う役者さんですね。

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『The Aviator』Leonardo Wilhelm DiCaprio 画像元:http://goo.gl/GbWVCF

 

 また,当時のハリウッドトップスターとのロマンスも見所の一つ。特にハワード社長とキャサリン・ヘップバーンとの恋は,演じる役者さんの演技力もあいまって,とても説得力があります。

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Cate Blanchett 画像元:http://goo.gl/6HuRq0

 このアメリカを代表する女優を演じたのはケイト・ブランシェット。あの,キャサリン・ヘップバーンのさばさばして芯の通った雰囲気を漂わせる名演技でございます(ちょっぴり美人過ぎる気もいたしますが…)。特に映画終盤,彼女がハワード社長に対してとある行動に出る場面は,まさに彼女らしさを体現している,名シーンの1つといえましょう。

 この役者さんは,本作で見事アカデミー助演女優賞を受賞しております。

  反面,ハワード・ヒューズは生涯強迫症にさいなまれ続けた孤独な一面をも持っていました。この映画は,その側面もしっかりと描き出しております。自らの衣服にすら触れることもできず,全裸で一人部屋に閉じこもる。演技派レオナルド・ディカプリオが演じて見せるその姿は,成功に向けてまい進し続けた姿の陰の側面を強烈に印象付けます。

 実際にはこの病の末に孤独な最後を迎えた彼でしたが,本作はその半生に焦点を当てており,決して悲しさだけを残す映画ではございません。

 光と影の両面を描きつつも,救いのある作品,と申せましょうか。

 

 

 さて。この『アビエイター』の主人公であるハワード社長は,映画製作者。

 つまり社長映画ではなく,映画社長だったわけでございますね。そしてこの方の制作した映画というのが,自身の生涯にも劣らないほどの逸話に満ち溢れております。

 そのなかでも抜きん出た逸話を持つ作品が,『アビエイター』にも登場いたいたします『地獄の天使』。ハワード・ヒューズ作品の中でも最も規模の大きな映画でございましょう。

 この映画は,第1次世界大戦を舞台に,イギリス人兄弟とその友人だったドイツ人留学生が戦争に巻き込まれ,それぞれの国の空軍に属することになる…といったあらすじです。

こう書きますと,兄弟愛あり,敵味方に引き裂かれた友人の苦悩ありの人間ドラマのようですが,こちら,少々不思議なバランスの作品に仕上がっております。

 まず,空中戦シーンには相当な迫力があります。それもそのはずでして,ヒューズ社長は映画の制作に先立ってまずはイギリス・ドイツ・アメリカ3カ国の戦闘機・爆撃機を買いあさったとのこと。こうして撮影された空中戦パートは,まさに驚きの一言です。

 特に,ドイツとイギリスの戦闘機が数十機入り乱れて戦いを始めるシーンは,おそらく現在では撮影不可能な規模でしょう。CGではない,実物の飛行機が猛禽のように羽を翻して飛び回るこの場面を見るためだけにこの映画を観てもいい,と思わせるほどのダイナミックさです。

 それと対照的なのが,人物の描かれ方,主人公たちの人物造形も,彼らをめぐる女性の描かれ方も,あくまでトーキー時代のごく標準的な描かれ方にとどまります。つまり,なんと申しましょうか,ムラがあるのです。

 思うに,飛行機大好きのハワード社長,どうも趣味丸出しでこの映画を撮ったんじゃないでしょうか。ちなみに本作の制作費は当時のお金で約400万ドル。血の気の引くような大金をつぎ込んだ趣味映画といえるのかもしれません。妥協無くフィルムに収められた飛行機愛には,鬼気迫るものがあります。

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『地獄の天使』Hells Angels 1948  画像元:https://goo.gl/wUCiOx

 

 ハワード社長はその他にもたくさんの映画を手がけておりますが,基本的に大作が多く,中には珍作もございます。例えば『征服者』はその典型かもしれません。

 こちらは,あの典型的なアメリカ人ヒーロー像を体現するジョン・ウェインをチンギス・ハーン役に据え,ほぼ全ての登場人物を白人で纏め上げたモンゴル歴史劇。当時のアメリカのステレオタイプな東洋観を知るには最適の怪作です。

 『アビエイター』で人物を知り,これらハワード社長製作の映画を観ると,また異なった側面が見えてくるかもしれません。

 

 映画も作った史上最も有名な大富豪。『アビエイター』をご紹介いたしました。

 

 

 (2015.1. 文:黒田 拓)