本ウェブマガジンは毎月25日更新。従いまして少々ピークは過ぎてはおりますが,メリークリスマス! のご挨拶もまだ時機を逸してはおりませんね。

 折角の時節でございますので,クリスマスにちなんだ社長映画をご紹介しようと考え,筆者,頭の中のアーカイブを端から順に片っ端から調べたおすことにいたしました。

 そうしましたら見つかりました。そのものずばり,社長が主人公のクリスマス映画です。あ。クリスマスはもちろん,年末年始のひとくぎり,心をほんわりと暖めてくれる作品でもあります。

 

  『 3人のゴースト
   1988年制作 アメリカ映画
   リチャード・ドナー監督

 若くして世界最大のテレビ局の社長に就任したフランクは,辣腕だが冷酷な男。クリスマスの近いある日,彼の元に亡くなった先代社長の霊が現れる。フランクの行く末を案じた先代社長は,彼のもとに3人の幽霊を送り込むことにする。3人がフランクに見せるのは,過去・現在,そして未来。かくしてフランクは,幽霊たちの遭遇で大慌てとなる…。

 

 この映画,実は邦題と原題が大きく違います。原題は『SCROOGED』。邦題がゴーストに焦点を当てたものになったのには,主演のビル・マーレイが本作からさかのぼること3年前に出演し,日本でも知名度を上げるきっかけとなった大ヒット映画『ゴーストバスターズ』を意識した…などという経緯があるのではないかなあ,とも勘繰ることができます。

 そして原題の『SCROOGED』に眼を向けてみますと,この映画がまさにクリスマス映画であることがよく分かります。少しひねりの効いたこの不思議な単語の元ネタは『スクルージ』,つまりかの名作物語『クリスマス・キャロル』の主人公の名前だからです。

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画像元:http://goo.gl/6PMLul


 果たして本編も『クリスマス・キャロル』を下敷きにして展開します。しかしそこは現代版。大きくアレンジがなされています。

 まず,主人公。冷酷な守銭奴は世界最大のネットワークを持つテレビ局の社長に姿を変えています。

 視聴率をとるためならばなんでもする,意に沿わないものは側近でも平気でクビにする,といった姿勢は,『怖い社長』のステレオタイプそのものです。文字で書くと少々陳腐ですが,主人公を演じるビル・マーレイお得意の『仏頂面で早口の毒舌』という演技がまたこの役柄に実にぴったり。本当に憎憎しげに見えます。

 特に,冒頭に登場する,社長自らがプロデュースしたクリスマスのイメージCMは,劇中の企画会議に参加した社員のみならず,見ている観客も唖然とするようなひねくれたどぎついものです。純真なお子さんが観たら泣くかもしれないほどの,黒い笑い。

 この,多少行きすぎなどぎついユーモアも,本作の特徴です。主人公の前に現れる3人の幽霊たちも,それぞれに強烈。

 例えば最初に出くわす幽霊は下品なタクシードライバーですし.2番目に出会う幽霊は恰幅のいい中年女性。主人公を振り回す上,SMネタまで持ち出す始末。彼女の登場シーンは特に,本作がクリスマス向けファンタジー映画なのか何なのかが分からなくなってしまうような,どぎつい笑いに満ちています。

 

 さらには,ここに主人公のロマンスも一本の軸として加えられています。かつての恋人との再会,過去の思い出,そして2人はよりを戻すことができるのか…。これも,原作にはない,実にクリスマスらしい甘い味付けといえましょう。

 

カレン・アレン

Karen Jane Allen 画像元:http://goo.gl/O6jHtg

 このヒロインを演じるのはカレン・アレン。『レイダース 失われた聖櫃』でヒロインを務め,さらに数年後、同じ役柄で『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの謎』にも出演した女優さんです。華やかなヒロインというよりは,仕事に打ち込む活動的な女性という役柄がよく似合う雰囲気をお持ちです。

 本作でも冷酷な仕事人間に成り果てた主人公とは対照的な役柄を演じ,どぎついユーモアの世界に華を添えています。

 そんな『大人』な要素をふんだんに含みつつも,物語はきちんとクリスマス・キャロルを追うように素敵な結末を迎えます。

 

 結末はクリスマスらしい暖かなものですが,このクライマックスの描き方もまた,一味違います。主人公がテレビ局の社長であることを最大限に生かした展開に沿って,前半にちりばめられた社長の所業が一気に収束していくこの結末は,ぜひ実際にご覧になってお確かめください。

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画像元:http://goo.gl/yljGyK

 
 フランク社長役のビル・マーレイは,アメリカの長寿コメディ番組『サタデーナイトライブ』にてコメディアンとして頭角を現した役者さん。『ライフ・アクアティック』『ロスト・イン・トランスレーション』などの作品で性格俳優として活躍する他,様々な映画ににちょくちょくゲスト出演しては往年のコメディアンとしてのセンスを存分に発揮しています。2009年の映画『ゾンビランド』では,ゾンビ映画なのに本人役で出演,という,よく分からない役どころを実に楽しそうに演じていました。

 

 冷酷な社長が主役を張る,ちょっとどぎつい現代版クリスマス・キャロル。

『三人のゴースト』をご紹介いたしました。

 

 (2015.12. 文:黒田 拓)