本連載では,様々な映画の中の社長像を読み解いておりますが,実は社長が主役の映画というもの,そう多くはありません。では,映画の中における社長の役割は,一般的にはどんな所にあるのかと申しますと,悲しいかな,結構な割合で『悪役』だったりもいたします。さもありなん。物語を作る側から考えると,この社長というポスト,大変便利なんでございましょうね。例えば,正義の主人公が悪と立ち向かう活劇映画を作ろう,制作サイドが考えたとします。そうなりますと,必要なのは敵役。こいつをどうしよう? ということが思案どころとなります。

『秘密結社』だと突拍子もなさすぎる。かといって『国家』だとシステムが複雑な上,撮影規模が大きくなりすぎる。となると,ある程度仕組みが簡潔で,かつリアルに感じられるような巨大組織は何だろう? 然り。『会社』でございます。かくして,『野望を抱いた社長率いる大企業が陰謀をめぐらす』という,おなじみの設定が映画業界を未だに席巻し続けている,という訳でございますね。

 あまたあるB級映画から,かの007シリーズでも屈指のインテリジェンスな敵役の登場する作品『トゥモロー・ネバー・ダイ』まで。悪役社長,本当に多いです。しかし,もはや伝統芸のようなこの『悪の社長』像も,実は世の流れと共にかなり変化してきているようなのです。

 

今回は,リメイクされることによって社長像が変化し,それによって全くニュアンスの異なる作品に仕上がった映画をご紹介します。

 タイトルは『ロボコップ』。原作(左)は1987年の,そしてリメイク版(右)は2014年の作品です。

1987

1987年制作『ロボコップ』ポール・バーホーベン監督 画像元:Amazon.co.jp

2014

2014年制作『ロボコップ』ジョゼ・パジーリャ監督 画像元:Amazon.co.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この映画がリメイクされることによって明らかになったのは,現在のCGの進歩でも撮影技術の進化でもなく,時代の推移による『一般的な社長像の変化』だったのです。 

 ストーリーの細部は異なるものの,根幹部分は同じですので,両者に共通するあらすじを以下,記させていただきますね。

  近未来のアメリカ。大企業が一都市を買収して経営し,警察機構までをも民営化するほどに力を持ち始めた時代。

 大企業『オムニ社』は,悪化の一途をたどる治安維持にロボットを導入する計画を進めていたが,ロボットの認識機能に欠陥があり,なかなかその計画は進まない。

 おりしも,デトロイド随一の警官・マーフィーはとある凶悪犯罪者を追う中でその凶弾に倒れてしまう。オムニ社はその身体を利用し,機械と人間とが融合したロボット警官『ロボコップ』を開発。治安維持ロボット導入の弾みにしようと画策する。しかし,その背後には会社ぐるみの陰謀が隠されていたのだった。果たしてロボコップは自分を,そして正義を取り戻すことができるのか…。

 

 原作とリメイク版では,この『会社ぐるみの陰謀』と,主人公の『自分自身と正義の取り戻し方』が全く異なる,という次第でございます。

 

Paul-Verhoeven

ポール・バーホーヴェン監督 / 画像元:3D FOCUS / http://goo.gl/xMbC8G

  原作を手掛けたオランダ人監督,ポール・バーホーヴェンは,映画のテーマを『一人の人間の楽園喪失と回復の物語』と語ったように,87年版では主人公の内面的な要素にかなり焦点が当てられているのに対し,リメイク作品である2014年版では主人公と家族との関わりが重要視されており,この辺りも時代を反映させているように感じられますが,何よりこの2つの作品の性格を大きく変えているのは社長の存在です。

 原作に登場する『オムニ社』は典型的な当時の大企業で,あらゆるサービスを一手に経営する巨大な組織です。それを束ねる社長は,どっしりと構えた大物。治安維持ロボット導入を許さない毅然とした態度など,社の利益と世の大局とを見据える姿が描かれています。80年代のあるべき指導者の姿,と言って良いかもしれません。

 さらに,ロボコップを巡る陰謀は社内の一部勢力によって企てられていくため,いわば『内乱』の構図を取ります。したがって社長は悪事に手を染めるのではなく,最終的にはそれを収める指導者としての役割を持つこととなるのです。

 ラストシーン,社内の悪事を知った社長のとった行動と,その後にロボコップにかけた言葉は,主人公の喪われた人間性が回復する瞬間を見事に描いた本作屈指の名シーン。やるな。社長。そんな感想を抱いたものでした。

 

 対して2014年版の『オムニ社』は,多角的な経営を行う大企業なのは同じですが,社長の存在がよりクローズアップされています。野心家で,常に先を行くアイディアを求めて動き回る。腹心たちとフランクにブレインストーミングをする姿には,ベンチャービジネスの匂いがします。今の時代のあるべき社長像,といえましょうか。

 そしてここが最大の違いなのですが,リメイク版では社長がロボコップ導入の陰謀をけん引する役となります。会社の理念と体質を社長自身が体現し,それがゆえに結果的に事態をロボコップを巡る陰謀へと発展させていく。その過程が比較的丹念に描かれて行くため,リメイク版はむしろ『オムニ社長繁盛記』という観方すらできる気がします。

 

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マイケル・キートン / 画像元:collider.com/ http://goo.gl/S3fZOv

 社長役はマイケル・キートン。スタンダップ・コメディアン出身の早口演技を生かし,『現代の社長』を見事に演じています。そしてリメイク版を手掛けたのは,新進気鋭のジョゼ・パジーリャ監督。ドキュメンタリー畑出身ということもあり,オープニングのシーンや,主人公と家族との日常を描くシーンなどは,ドキュメンタリーを思わせるカメラワークで新鮮さを味あわせてくれます。

 原作とリメイク版。2つの『ロボコップ』は,互いに1つの物語が持つ2つの異なる側面を描こうとしているのかもしれません。

 1人の人間の死と再生を観るか,事件を招いた1人の社長の生きざまを観るか。1987年版と2014年版,2つの『ロボコップ』をご紹介いたしました。

 

 (2015.7. 文:黒田 拓)