映画に登場する様々な社長像に焦点を当てる本連載。今回は,理想に燃える才能ある社長の、実話に基づいた映画をご紹介いたします。

 タイトルは『タッカー』。1988年の作品です。 

Tucker: The Man and His Dream

画像引用元:ALL MOVIE http://www.allmovie.com/movie/v51196

 
 『タッカー』
 1988年 アメリカ映画

 フランシス・フォード・コッポラ監督

  ジョージ・ルーカス製作総指揮,そして『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラ監督という錚々たるスタッフによって作られた本作。実在の人物を描いた作品でございます。

 第二次世界大戦終戦間際のアメリカ。車に魅せられ、自動車工場を経営していた主人公プレストン・タッカーは、軍事体制の中、自動車の代わりに兵器を造らされながらも自身の『夢の車』を造るべく奔走する。ところがその先鋭的な設計に危機感を抱いたアメリカの大手自動車会社たちは、様々な手を使って妨害を始めるのだった…。

 

 さて、ここで結末をばらしてしまいますが、実はこの映画、ほろ苦い結末を迎えます。いきなりの掟破りで申し訳ありません。しかしこの反則技も、本映画の本質が結末にではなく、主人公である社長・プレストン・タッカーの人物像にあるからこそ。一言で説明しますとこの社長、『理想的なのに、理想的でない』とでも申しましょうか。

…なんだか妙な言い回しでございますが、今回はこれをキーワードに映画を紐解いてまいりましょう。

 

まず、そんな苦い結末を予見しようもないくらいに、主人公・タッカーは大変ハイテンション。どんな時でも早口で自分の夢をまくしたて、精力的に動き続けます。

 家族や仲間と自身の夢の車のモデルカーを作り上げ、大衆車として普及させるべく目的に邁進し続ける。その姿は、自信に満ち満ちているというよりも、自身の夢を実現に向けて動かしているという、喜びと楽しさに突き動かされているようにも思えます。

 実は車に詳しくない当方、本コラム執筆を機に改めて資料をあたってみたのですが、この『タッカー』もしくは『タッカー・トーピドー』と呼ばれている車にはびっくりするような先進的な装備が備わっていたのですね。

 例えばシートベルト。当時の車って、なかったんですね。シートベルト。勉強不足ですみません。その他、ディスクブレーキだとか、『衝突時の衝撃を吸収するためにフロント部分を壊れやすくする』という発想など、現在、安全面においてスタンダードである機能が、この車にはすでに取り入れられていたとのこと。

 タッカー社長、その先見の明と才能は確かなものだったようです。まさに『未来の車』といえるのかもしれません。

 才能にあふれ、常に楽観的で前向き。近くにいたら元気になりそう。まさに『理想的な技術者』です。

tucker_the_man_and_his_dream_the_car_of_tomorrow_today

画像引用元:Cinemania! / URL:http://goo.gl/DRoKgs

   しかし、社長経験の無い当方が観ても、映画の中のタッカー社長はどうにも危なっかしく見えてなりません。

技術者としての先見性があり、腕と実行力はあるものの、経営者としては物事にのめり込み過ぎる。そんな姿に、観ている方はだんだんとハラハラし始めます。

事実、ある意味なり振り構わない精力的な動きは大手自動車会社などの危機感をあおり、その妨害を受けた結果、タッカー社長は『結局そんな夢のような車を造るつもりは無かったんじゃないのか?』と、詐欺事件の被告として法廷に立つことになってしまいます。 

 タッカーが法廷で最終弁論を行なうシーンは、冒頭のまくしたてるような演技とは一味違う、噛みしめるような口調で観る者を惹きつけます。演じた名優、ジェフ・ブリッジスの独壇場といえましょう。この弁論内容、力に屈せず抗おうとする社長の姿が印象的ですが、さりげなくこの映画が作られた1988年当時の日米間貿易が抱えていた問題が反映していたりもしますので、ぜひ本編をご覧になってみてください。今の時代に改めて味わい直してみますと、また別の意味を持って見えてくる面白さがございました。

  

 ともあれ、夢を追いかけるあまり、周りを見る余裕、いったん立ち止まって見る心の『遊び』を失ってしまった。タッカー社長が失敗した原因はここにあったように、この映画からは見てとれます。『社長としては理想的ではない』タイプの方だったのですね。

『技術者としては活力と理想に満ち溢れていて理想的だが、社長としては周りを見る冷静さに欠けており理想的ではない』。これが、冒頭の奇妙な言い回しの正体でございました。

 しかしだからこそ、映画にしよう、という思いを抱かせる魅力を持った人物だったのかもしれません。 

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ブラックホーク博物館所蔵のタッカー・トーピード 画像引用元:Wikipedia / https://goo.gl/tjU2c2

 実際には50台ほどしか作られなかったという幻の車『タッカー』ですが、実は本映画撮影当時にはそのほとんどが愛好家によってメンテナンスされ、現存していたそうです。そしてその現存していた本物の『タッカー』たちが,この映画に登場しています。

 その他,限られた時間で50台もの車を完成させるべく主人公たちが作業を続けるシーンの丁寧な描写など,本人も『タッカー』を所有していたという監督の,そして何より筋金入りのカーマニアである製作総指揮ジョージ・ルーカスのクルマ愛に満ちており,車好きのための映画,という側面もあります。

 

 残念ながら社長の夢が破れることでこの物語は終わりますが、それでもこの映画は実にさわやかな余韻を残します。それが何故なのかは本編をご覧頂くとして、代わりに本物のプレストン・タッカーが残した言葉を引用させていただきます。

「ヘンリー・フォードだって、最初は失敗したんだ」

 

 夢に一途なゆえに、夢に破れた社長。今回は『タッカー』をご紹介いたしました。

 

 (2015.7. 文:黒田 拓)