映画の中の社長にこだわる本コラム。今回も、スクリーンの向こうに現れる社長像を掘り下げていくことにいたしましょう。

 『Tashi=nam』タシナムは、仕事と遊びのイイ関係を社長に伺うウェブマガジンでございますが、今回は遊び心がそのまま社長の姿を取って現れたような、そんな型破りな社長が登場する映画のご紹介です。

 

Matinee2

画像元 http://en.wikipedia.org/wiki/Matinee

『マチネー/
 土曜の夜はキッスで始まる』
 1993年 アメリカ映画
 ジョー・ダンテ監督

 こちら、実はとってもジャンル分けの難しい映画です。あれこれ決めてかかるよりも、まずはあらすじをお読みいただき、話を進めてまいりましょう。

 1962年。キューバ危機に揺れるアメリカはフロリダ州のキーウエスト。海軍の父親を持つ主人公の少年は街になじめずにいた。そんな少年の唯一の楽しみは、ホラー映画。そんな折、キーウエストにホラー映画監督・ローレンス=ウールジーが新作映画『マント(蟻人間)』の上映にやってくる。ひょんなことから破天荒な彼と交流を持つことになった少年は、その騒ぎの中で少女と出会い、恋に落ちるのだった。

 低俗なホラー映画の上映禁止運動などが繰り広げられる中、ウールジーの『マント』が遂に公開される。少年はガールフレンドと共に映画館へ。果たしてその映画に隠されたとんでもない『仕掛け』とは…。

 と、いったこの映画。恋愛と思えばホラー映画も登場する。かと思えば往年のB級映画役者が登場し、さながらBムービー同窓会のような側面もある。…一口に申さば『盛りだくさん』なのですが、強いて言うならば映画をモチーフにしたラブストーリー、とジャンル分けできましょうか。事実、邦題には『土曜の午後はキッスではじまる』というロマンティックな副題が添えられています。しかしこちら、どうも制作した監督のまなざしは初々しい少年少女の恋を越えた先に向けられているように思えてなりません。
そのまなざしの先にあるのはローレンス=ウールジー。今回取り上げる『映画の中の社長』です。

 

稀代の大興行師か?イカサマ師か?
一人映画制作・配給・興行師 ローレンス=ウールジー社長

 少年の住む街にやってくるウールジーは映画監督ですが、興行先交渉から舞台監督、プロデュースに至るまで自ら何役もこなす、まさに一人制作会社の社長です。

 そしてこの社長、とにかくめちゃくちゃ。何せこの監督が作る映画、フィルムをスクリーンに映し出すだけでは終わらないのです。劇中で爆発が起こったら客席シートがびりびりっと震える、『あまりにもショッキングな映画である』という触れ込みで劇場出入り口に看護婦を待機させておく、などなど、まさにやりたい放題。

 気弱な映画館主を舌先三寸で言いくるめて公開にかこつけたり、かと思えば、現地で急場に集めたスタッフたちを前に、映画の素晴らしさを熱く語ってその心をがっちり掴んだり。

 本気なのか冗談なのか分からない、いたずら好きの人を食った姿勢ながら、根っこにある映画への情熱を隠さない。そのトリックスターのような天衣無縫さと対照的な筋の通しぶりとが、映画監督・ウールジーの魅力の根っこにあるような気がいたします。

 映画上映に向け、観客席のシートの下にモーターを仕掛けるなど、様々ないたずらを仕込む時のウールジーの嬉しそうな顔は、まさにいたずらっ子のそれ。演じるお茶目な性格俳優・ジョン=グッドマンの面目躍如と言えましょう。

 

 こんな茶目っ気たっぷりのウールジーには、明らかにモデルが存在しています。映画監督・ウイリアム=キャッスルです。

 

William_Castle

画像元 http://en.wikipedia.org/wiki/William_Castle

 ウイリアム=キャッスル
 William Castle.1914-1977 (aged 63)

『ティングラー』『地獄へ続く部屋』『13ゴースト』などB級サスペンスやホラーを生みだした彼は、上映時に仕掛けを用意することが何よりの特徴でした。まさにウールジーはキャッスルそのものだったという訳です。
 特に『ティングラー』では、謎の寄生虫が映画館に侵入するシーンを用意し、それらが観客の居る本物の映画館内に逃げ出すという趣向が用意されています。(オリジナル上映時には、観客の足をくすぐる仕掛けも用意されていたとのこと)このギミックには本作『マチネー』でもオマージュが捧げられています。

 

 本作『マチネー』では、キューバ危機という当時の情勢をうまい具合に使ったラストの落ち、物語全編を彩る60年代オールディーズ。かの時代を知る映画としてもお勧めです。ともあれこの映画、脇役・憎まれ役に至るまで全ての登場人物に優しいまなざしが注がれており、素敵な余韻を残してくれます。


 監督はジョー・ダンテ。往年のヒット作『グレムリン』の監督です。本作に登場するホラー映画『マント(蟻人間)』も自ら全編撮影して完成させてしまうなど、本人もB級映画愛に満ちた方のようです。
 そして実はこの監督、かなりの確率で作品に社長を登場させます。そしてその社長像は一貫してもいます。ひょっとするとダンテ監督自身の経験に基づいていたりするのかもしれません。ダンテ監督が描く社長像、この辺りはまた別の機会のご紹介いたしますね。

 筋の通った愛ある破天荒。今回は、とんでもないが憎めない、そんな社長の登場する『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』をご紹介いたしました。

 

 

 (2015.6. 文:黒田 拓)