タシナムは、各界で活躍されている社長の皆様に焦点を当て『遊びと仕事のイイ関係』をご紹介するウェブマガジンでございます。

と、なりますと、本コラムにも何らかの社長要素を盛り込まなくてはいけない。そう硬く心に決めた当方なのですが、はて、社長の出てくる映画ってそんなにあったっけか? 事実、思い浮かぶのは『社長シリーズ』位でございました。

が、しかし。腰を据えて観てみますと、実は社長映画というものは決して森繁久弥の専売特許などではなく、結構あることがわかりました。

さらに、映画を『社長』に注目して観てまいりますと、実に面白い事が見えてきます。憎々しい悪役、理想の上司…。監督や脚本家、あるいは演じる役者達が社長に抱いている様々なイメージや願望などが見えてくるのです。

 本コラムでは、そんな社長の出てくる映画を取り上げ、映画の中の社長像を掘り下げてまいります。

 

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出典 : Amazon.co.jp – Iron-man DVD

『アイアンマン』
2008年 アメリカ映画
ジョン・ファヴロー監督

 さて、第1回目に取り上げますのは、恐らく近年最も有名な社長の出てくる作品です。 

『アイアンマン』。2014年までに三部作が制作されましたが、今回は2008年に公開された第1作目をご紹介。『社長がスーパーヒーロー』という、天は2物を与えちゃったと申しますか、そんな贅沢な人物が主役の映画です。

 天才科学者にして軍事企業の社長である主人公・トニー・スタークは、武器のデモンストレーションに訪れたアフガニスタンで自らが作った武器によって襲撃され、テロリスト集団に拉致されてしまう。テロリストのリーダーはスタークの科学力に目をつけ兵器の製造を強要するが、スタークは彼らに従うふりをして手作りのパワードスーツを造り出し、脱出を図る。

 犠牲を払いながらも生還したスタークは自分の過ちに気付き、自らが生み出した兵器を消し去るため、新たな戦闘用パワードスーツ『アイアンマン』を生み出しテロ組織と戦う…。

 

…と、いった感じのこの映画。自身の過ちに向き合い、毅然と責任を果たすヒーロー。こう聞きますといわゆるところの『アメリカの望む強い指導者像』そのもので、たびたびハリウッド映画に出てくる手合いと変わらない感じでございますが、我らがトニー・スタークは一味違う。

 今回は『一味違う社長』という視点から、この映画を見てまいりましょう。

 

 まず一味違うのは、実はこの映画、肝心の『アイアンマン』は映画の中盤あたりまで待たないと登場しないのです。

では件の主役が出てくるまでの間、スターク社長は何をやってるのかと申しますと、造っているのです。アイアンマンを。

 前述の通り、アイアンマンは変身するのではなく、スーツを纏うことで力を得るヒーローです。そしてそれを造るのは、天才科学者である社長ただ一人。

 その開発ラボは自宅の階下にあり、車庫と兼用なのか並んでいるのは趣味に走った車の数々。そこでアイアンマンを造る社長の姿には、自身の犯した罪を償うための悲壮感はなく、むしろ趣味の造形にいそしむ軽快さがあります。

 実験に失敗してお気に入りの高級車を壊してしまいへこんだり、アイアンマンの色は、「ホットロッドカーの炎のような色にしよう」と、趣味丸出しの理由で決めてしまったり。スターク社長の行動は、まさに大人が本気で趣味に没頭している時の姿そのものです。

  実はこのスターク社長、モデルが存在します。
    

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出典 : www.kumiemon.com

 コミック版の『アイアンマン』が最初に登場したのは1963年。コミック原作者スタン・リーが、世を忍ぶ従来のヒーローとは正反対の主人公を描くべくモデルの一部としたのが、ハワード・ヒューズ。全人類の資産の半分を持つとも称された、アメリカの実業家です。若くして手に入れた遺産を大胆に使い、全くの未経験分野である映画制作に乗り出したり、大女優と浮名を流したり。図抜けた逸話がいくつも残る大富豪でございますね。こういった彼の華やかで野心的な側面が、スターク社長の人物像に反映しているようです。

 ヒューズ自身は強迫症などにより寂しい晩年を送りましたが、対してコミック版のスタークは現在に至るまで活躍を続けています。社長としてはいたって誠実。他のヒーロー達をまとめるリーダーシップを発揮し、企業コンプライアンスを重んじる。まさに『理想の社長』です。

しかしこの映画に出てくるスターク社長は、そんなコミック版とは少しだけ趣が違います。まず、コミック版よりもちょっぴり年配。そしてなにより、遊び心を失わず、趣味と仕事を互いに響かせ合って最終的には世界を救う、まさに『仕事も遊びもデキる』人物像にブラッシュアップされています。

 特に映画のラストシーンでスターク社長がやらかす、『ヒーローのお約束』を破るとんでもない行動は、硬い決意とお茶目さが同居する見所の一つとなっています。

 

 自らの使命を全うするための行動に趣味のスパイスを利かせ、世界を救う。

 今回はヒーローとしても、社長としても一味違う『アイアンマン』をご紹介いたしました。

   (2015.4. 文:黒田 拓)