作家 桜木紫乃さん インタビュー

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 大切なことは大概ストリップから教わった ~『表現者』の共通点

 

― 今年(2016年6月24日)発表された作品『裸の華』は、札幌ススキノを舞台にした小説ですね。

桜木「暗く書こうと思えば、いくらでも暗くなるお話から、それを全部外して書きましたので、実際の現場からはあっさりしすぎだ、と言われるかと思ったんですが」

 

― 『裸の華』では、ストリップ劇場で活躍した主人公が一度ステージを降りて、再スタートを切るところからお話が始まります。以前ススキノにもストリップ劇場があった頃は、桜木さんもよくご覧になったそうですね。

桜木「はい。今はストリップ業界も随分変わりました。昔の札幌道頓堀劇場が売りにしていた『情念系』のステージは見かけなくなり、今はダンサーがアスリート化している感じ。それでも、独特な世界観をお持ちの方が数多く活躍していらっしゃいます。相田樹音さんという踊り子さんがいるんですけれど、彼女のショーアップされたステージは本当に素晴らしいですよ」

 

― 今回、作品を書くに当たって、実際に劇場やダンサーを取材されましたか?

桜木「ストリップのパフォーマンスについては、今まで見てきたことを。女の身体の可能性については、バレエ団の先生にお話を伺いました」

 

― ストリップのステージを客席から見ていたとしても、ステージに立つダンサーの心理を書く、ということは難しくありませんでしたか?

桜木「どんな職業でも自分に引き寄せて書くということが多いので、違和感は無かったです。『実際と違うよ』と思われる人も中にはいるかもしれませんが、踊り子さん達も表現者として自分と同じものを抱えてやってるんじゃないかな? と思っていますから」

 

― 表現者、ですか。

桜木「『表現者』という言葉を教えてくれたのは、札幌道頓堀劇場の元社長、清水ひとみさんだったんです。そして、この作品を書こうと決心したとき、最後の一押しをしてくれたのも清水さんでした。そうでなければ、こんな冒険はできなかったです。ずっと、書いてもいいのかな。と思っていました。デビュー前、あんなに劇場を取材させてもらって、楽屋にも入れてもらって、10何年も形にできなくて、ずっと切なかったんです。お世話になって、会えなくなって。これを書けば、どこかで目に入れてもらえるかな。と」

 

― そういう経緯がおありだったのですね

桜木「大切なことは大概ストリップの舞台から教わったんです。踊り子さんって、イヤって言わないじゃないですか。触っちゃダメ! っていうくらいで(笑)。踊り子さんはみんないつも明るくて、お客さんはシャイなオジちゃん達でね。浮世の切ないところに晒されているおじちゃん達が5000円握り締めて、お弁当のおにぎりとビールで1日粘って。踊り子さんは、そういうオジちゃんたちの恥を引き受けて、その人たちの夢を20分で叶えてくれる。私も30分くらいで読めてしまう短編小説を書いているんですが、この話で踊り子さん達の表現力に追いついてるだろうか? って、いつも考えます」

 

『裸の華』/集英社, 2016

― 作品『裸の華』では、ダンスシーンも多く描かれています。主人公ノリカは怪我を理由にステージを降りたプロのダンサー。その身体と心理の描写が非常に真に迫っているのですが、桜木さんご自身はスポーツをなさる方なんですか?

桜木「私は全然できないんです。だから、知識の披露に陥らないで済むところと、足りないところと両方あると思います。もし、自分が踊れるなら、こういう風には書かないかもしれない」

 

 

― 非常に実感がありました。

桜木「そう書けていたら、嬉しいです。ノリカがステージに向かうときの気持ちと、原稿を書いているときの私の気持ちは、そんなに変らないんです。自信を失くしては、またやり、その繰り返し。きっとみんな同じなんですよ。ストリップを好きになった理由もそこなんです。この人達がやっているのは脱いで、裸になって、足を広げている。なんだ、私のやりたいことと同じだ。と思ったんです」

 

― どういうことですか?

桜木「『ホテルローヤル』という作品の担当者から『桜木さんは恥の質が他の人とは違うみたいだから、そこを書いてもらえませんか?』って言われたんです。『裸の華』にも書きましたが、ひとたびストリップの舞台に上がったら、足を広げられないほうが恥ずかしいですよ。そこで、お客さんが恥ずかしいと思うような恥ずかしがり方をしてはいけないわけで、そういう意味では私も本を書くというところで足を広げている人間なんだなって。書いて恥ずかしいことがあるならやめたほうがいい。と思っていて、そこは舞台に立っているダンサーと同じだと思っています」

 

― 『裸の華』では、主人公と若いダンサー達のレッスン風景が印象的でした。家族でもなく、雇用主と従業員の関係でもないんですね。

桜木「師匠と弟子の関係ってどんな仕事の世界にもありますよね。ストリップの世界にも芸の継承をする中で、血縁関係ではないところに生まれる親子のような情があるはずです。いつか踊り子さんが弟子を育てる話を書きたいと思っていました。そして、やっぱり、ひとは原点に戻るんだな。と思ったのは、その物語はどこかで、私自身が経験した親との関係の希薄さとか、距離感やズレに繋がっているんです。私も他人に教えてもらったことが多いから、血が繋がっていなくても、親子みたいな交流があっていいんじゃないかな。と思うんです。」

 

― この作品が発表されたときには、どういった反応がありましたか?

桜木「ストリップを観たことがない人が多いことに驚きました。みんな観に行っていると思っていたので(笑)。とにかく1回観ればわかる。と思って、なるべく観たことない人は劇場へ連れて行くようにしています。いやらしいものではないんです。ストリッパーはみんな気概を持って踊っているし、お客さんとの一体感が励みになるのは書き手と同じだから! と言って実際に連れて行くと、はまってしまう人がいてね(笑)」

 

― ストリップの世界はいずれ消えていく文化なのかもしれないと思うんです。桜木さんがその世界を題材にとって作品を発表することで、その文化が後世に残り、さらに踊り子さん達もこの作品を読んで、とても励まされていると思います。

桜木「そうだったら、本当にありがたいです」

 

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