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リスケジュール、海外進出支援、LGBT
。パイオニアとしての取り組み。

 

― 井上税務会計事務所がメインになさっているお仕事は、どういったお仕事ですか?

井上「一般的な税理士事務所がされている、会計業務とか、税務申告がメインです。そのほかに海外進出の支援をさせていただいたり、どなたでもご参加いただける、経営者向けのセミナーを毎月行っております。数年ごとにテーマを決めて活動を行っているのですが、今年からは、『LGBT』を柱に掲げています」

 

― 海外進出への支援や、『LGBT(性的マイノリティー)』理解のためのセミナーを行っている会計事務所というのは、札幌では大変、珍しいですよね?

井上「私も調べたことはないのですが、経済産業省の方とか、商工会議所の機関の方が、こちらに問合せてくださるので、他にはないのかもしれません。台湾に現地法人を持っている会計事務所というのはないようです。台湾の事務所は会計事務所ではないんですけどね。LGBTに取り組んでいる会計事務所は、北海道には他にありません。これから多くなるんじゃないかな。多くなってほしいな。と思っているところです。今年、たくさんの方にお声がけをしてきましたので、これから、増えていくはずです」

 

― 井上先生が、会計事務所のお仕事を始められたきっかけというのは、なんだったのですか?

井上「きっかけは、父です。父が税務署を辞めて独立開業したんですね。昭和48年です。個人事業として旧姓の鈴木という名前で父が亡くなるまで税理士事務所を開業しておりました。平成19年に父が亡くなったので、その後、現在の井上会計事務所という名前になりました」

 

― お父様と同じ道に進まれることに、迷いはありませんでしたか?

井上「迷いはなかったです。両親が小さい頃からそういうふうに育てたんですね(笑)。中学2年生くらいからスーツを買ってくれまして、それがカッコよくて。その頃から休みの日には事務所でお茶を出したり、コピーをしたり、手伝いをしてたんです。おままごとの延長みたいなものだったんですけれど。」

 

― 素直に喜んで、大人の世界に入っていかれたのですね。進学についても悩みませんでしたか?

井上「当時は、今みたいに資格を取れる専門学校がなかったので、進学の時には商業高校へ行きなさい。と言われてそちらに通いました。親戚の中に商業高校に通っているいとこが居まして、夏休みに事務所へ遊びに来たときに、父が『やってみて』と書類を渡したら、すらすらーっと処理できて、即戦力だったそうなんです。これはいい!ということで、両親の勧めでそちらに進みました。高校に入ってからも少しずつ、事務所の手伝いをしていましたが、部活動で剣道をしていましたので、そっちも忙しくて、実際は両親の思惑通りではなかったようですが(笑)」

 

― 学生の頃からその世界に馴染んでいらっしゃったのですね。

井上「結構、楽しかったんです。お客さまにお茶をお出ししたり、電話に出るのが楽しくてね。」

 

― ご両親の家業を継ぎたくない!という方も多いですが、そこは葛藤なく進まれたのですね。

井上「そう。そこへ入っていくときには、まったく葛藤はなかったですね。お客さまも素敵な方が多くて。以前はこちらからお伺いするのではなく、お客さまのほうから会計事務所にお越しになることが多かったんです。いろんな方がみえて、まだ子供の私に色々お話してくださって、楽しいんです。経営の話とか、そうでない話とか。自然に両親の作戦通りに進みました(笑)」

 

― 素敵なお客さまが多かったから、抵抗なくお入りになれたのですね。

井上「そうですね。もう42年前の話ですから、当時の経営者の皆様は代替わりなさって。こちらも代替わりして。おかげさまで今もいい関係を続けられています」

 

― 井上所長の代になってから、海外進出という事業を始められたのですね。国際部を作られたきっかけというのは、何だったのですか?

井上「10年位前からお客さまからのご依頼で、事業再生のお仕事に関わらせていただいているんですけれど、毎年東京の方へ行って、事業再生の研究会に参加しているうちに、北海道に情報が届くのが、あまりに遅いということに気付きました。特に当時は金融関係ですね。リスケ、リスケジュールといって、借り入れの返済のスケジュール変更を銀行と交渉することも仕事としてやっていました。元金を少なくしてもらうとか、利息だけ払うとか、そういうことは北海道でもやっていたのですけれど、債権カットというのは、当時、北海道にはなかったんです。でも東京では10年前から当たり前に行われていて。それを北海道でやろうとすると、詐欺だ!って言われたりする状況だったんです」

 

― そんなに違いがあったのですか!

井上「そう。これはあまりにもひどい。と思いました。事業再生だけじゃなく、全ての情報が遅いから、講師の方に来ていただいて、北海道札幌で講演をしてもらう。ということを始めました。その中で、ある講師の方が、海外に行きましょう!とお話してくださったんです。事業がどんな状態でも、北海道に居て条件が悪いと嘆くよりも、海外に出て直接自分の目で見れば、必ずビジネスチャンスがあるはずだから。と。その方のお声がけで、海外渡航されて事業を成功された東京の事業家の方も多かったんです。それをお聞きして、北海道は特にそうかな。と思いましてね。海外へ進出したい。と思っていても、良い製品や良いサービスがあっても、なかなか外に出て行けない」

 

― 情報がないですものね。

井上「そう。それで、講演を聞きに来てくださった札幌の経営者の方に海外視察について伺ってみたら、皆様、行ってみたい!とおっしゃるので、それなら、一緒に海外視察に行けるような道筋を作れないだろうか。と思って『国際部』を始めました。その入口として、日本から入りやすい国、台湾を選びました。しかも、台湾の方は北海道が大好き!ということで、お互いに相思相愛の方がいいですよね(笑)」

 

    井上税務会計事務所公式ウェブページ(http://www.inoue-tax.jp/index.html)より転載

井上税務会計事務所公式ウェブページ(http://www.inoue-tax.jp/index.html)より転載


― 今年からはじめられた『LGBT』理解への取り組みについて、お話を伺いたいのですが、どういうきっかけで始められるようになったのでしょうか?

 

井上「社内で講演のテーマについての情報を集めているのですが、数年前から『LGBT』はテーマとして上がっていたんですよね。その情報をまとめていくと、これは是非、北海道でやりたい。となりまして、ちょうど、『LGBT』当事者の方とも知り合う機会があったんですね。当事者の方にお話を伺うと、中小企業において、絶対に理解が必要なことですし、優秀な人材の確保という意味でも『LGBT』の方に安心して働いていただける環境を作ることが、ひとつ、税理士としての役目だと思いました」


― 一般企業の中では、まだ『LGBT』に対しての偏見が残っているのでしょうか?

井上「そうですね。LGBTに取り組むことによって、ご自分が当事者だと思われるかもしれないという不安感をお持ちの方がいらっしゃるようですね。私自身は、なんの抵抗感も無く取り組み始めました」

 

― これまで、『LGBT』当事者の方からはどういったご相談が多かったですか?

井上「そうですね。当事者の方が、職場の理解を得られなくてすごく困っている。というお話が思ったより多かったです。カミングアウトの問題があって、会社員の方が職場に知られたら職を失うのではないか。と大変心配されていらっしゃいました。それも、上司の方に『LGBT』への理解を深めてもらえれば、解決するのではないかな。と思いましてね。時間はかかるかも知れないですけど、事業再生ほどじゃないです。そちらは10年かかりましたから。『LGBT』に関しては、もっと早く状況が変わっていくと思います

 

― 今年は東京渋谷区で同性のパートナーシップ制度が成立しましたね。

井上「今度、世田谷区でも成立するようですね。実は今回、札幌の弁護士会でもそういう動きが出ています。札幌はレインボーパレードの会場としても有名で、理解の土壌がありますから、北海道で『LGBT』についての取り組みを行うというのは、意味がある事だと思っています」

 

― 今年はアメリカで同性婚が認められて、ああしたことも後押しになりますね。

井上「そうですね。今年6月にシアトルの会計事務所へ視察で行ってきたのですが、『LGBT』についてお聞きしましたら、もう当たり前のことになっていて、(今では)人事担当者の方が大学のLGBTサークルに人材探しに行かれるそうです。会社の方でも受容れられる環境を整えているので、本当に当たり前のことだそうです。アメリカは他にも人種差別の問題がありますよね。この間、ニューヨークの監査法人の方が仰っていましたけれど、証券会社に対応する30人のチームがあって、30人の中に16カ国の人たちが居て、一緒に仕事をしている。とお話していらっしゃいました」

 

― それは随分多彩ですね。文化背景が違えば、仕事の仕方も違うでしょうね。

井上「色々あるようですね。ユダヤ教の方は、金曜日の午後からは仕事をしてはいけない。という取り決めがあって、その時間に重要なミーティングが合っても、宗教上の理由で、じゃあお先に。って帰っていくんですって(笑)。それも含めて様々なダイバーシティ(多様性)が社内で理解されているんですね」

 

― そういう意味では、日本の企業の理解は少し遅れていますね。

井上「日本は単一民族ですから、理解にちょっと時間がかかるかもしれませんけれどね。北海道は特に、海外のお客さまが多いですからホテルの対応も困ることがあると思うんです。逆に、日本の男性が二人でニューヨークのホテルにチェックインしようとしたら、当たり前のようにダブルのベッドが用意されて困る。というお話もあるようですけれど(笑)」

 
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― 社内で『LGBT』への取り組みが決定したときには、反対意見はでませんでしたか?

井上「反対はありませんでした。そういう時代ですよね。という風に社内で共通理解して始めました。各事業所から『LGBT』実践のための研修をどこで受けたらいいのかわからない。というお話を伺っていましたので、そういう方をまとめて、弊社で研修会を行う計画を進めています。具体的な取り組みを進めるに当たり、その研修会にうちの社員も参加してもらって、社内での理解をさらに深めたいと思っています」

 

― 今年4月に行われた最初の講演会には、私も参加させていただきました。多くの方が参加されて、マスコミの取材に来ていました。やはり関心が高まっているんですね。

井上「講演会には100名近くの参加者にお越しいただきました。『LGBT』当事者の方が講師としてメディアに露出することで、その存在を広く知っていただけるきっかけになるといいですね。次回の講師は北海道出身の方にお願いしています。厳格なご両親の元で育った方で、カミングアウトするのにお互いにすごく大変だった。というお話をされていました。今はとても良い関係を築けているそうです」

 

― そういう実体験が聞けることは、いま悩んでいる方の勇気になりますね。

井上「最新の統計では日本人の13人に1人が『LGBT』だそうです。前回の講演が新聞に掲載されまして、その後、ある会合でお会いした方が「実は私も『LGBT』なんです。」って自然にお話してくださる機会があって、とっても嬉しかったんです。実際に身近なことなんだな。とあらためて実感しました」

 

  井上奈穂子 所長 インタビュー 】【】【】【